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そんな恋愛話をしているうちに、ゴールドガーデンへ到着した。
「おかえりなさいませ、クレア様」
「ご無事のお戻り、安堵いたしました。」
口々に挨拶と労いの言葉をかけてくれる。
ここまでは夢でみたとおりだ。
ここからだ。
「皆様、お出迎えありがとうございます。私の不注意によって皆様にはいらぬご心配をおかけしまして申し訳ございませんでした。特にエドワード殿は私を助けに来てくださり重傷を負わせてしまいまして、大変申し訳なく思っております。エドワード殿はお部屋でお休みでしょうか?お会いしてもよろしいでしょうか?」
皆顔を見合わせる。
「クレア様、移動でお疲れでしょう。まずはお休みになられてはいかがでしょうか?」
ここまで夢の通り?
いくらなんでもテッドは存在していることは間違いない。
ではなぜ?
やはりかなりの重傷により面会できないような状態なのか?
オリバー殿はなぜか私を自室へ急かす。
「オリバー殿、お気遣いは大変ありがたいのですが、まずはエドワード殿の容体を確認したいのです。面会が叶わないならせめてご状態を教えてはいただけませんか?」
皆から離れ、オリバー殿と2人になり、静かになったところでそう言うと、オリバー殿は考え込んだ。
「なんと申し上げたら良いか…。」
まさか夢のようなオチはあるまい。
やはり相当容体が悪いのか…。
しばらく言葉を選んでいたのか考え込んでいたが、口を開いた。
「あれは…怪我は確かに重傷でした。指の骨、肋骨が折れており、全身痣だらけでした。顔もおそらく鼻が折れたようです。鼻血や切り傷で血塗れになっておりました。…ですが、1番の傷は心の方でした。」
苦しげに話すオリバー殿は、一人息子の今の状態をかなり心配しており、不安そうな様子だ。
「クレア様を見捨てて自分だけが逃げ帰ったと。あれはそう申しておりました。クレア様はもっと酷い目に遭っているに違いない、婚約者としても、ゴールドガーデンのためにも、自分は命を賭けてもクレア様を守らねばならなかったのに、と。それを悔いております。帰ってきてからというもの、誰とも会おうとしないのです。最低限の医師の診察や治療、食事や排泄は行うのですが、それ以外は部屋に引きこもり己の不甲斐なさを悔やんでいるようです。」
まさかそのようなことになっていたなんて。
「しかし、私はエドワード殿のお陰で無事でした!傷一つ付いてはおりません。」
事実だ。気休めではなく、紛うことなき事実。
それでもオリバー殿は首を横に振る。
「なにを言っても聞き入れません。『助け出したのは自分ではない。マーティン王太子殿下だ。卑怯にも我が身可愛さで逃げ帰った自分とは違い、王太子殿下であらせられるのにその身を危険に晒してまでもクレア様を助け出した。』と。エドワードはそう思っております。事実がどうであれ、あれの中ではそういうことになっているのです。いくら我々が励まそうと、事実経過を伝えようと、あれの心には響きません。」
そんな…
間違いなくテッドのお陰で私はこうして無事でいるのに。
もちろん殿下が最終的には助け出してはくださった。
しかし捕らわれ1人孤独に震えていたところに、希望の光となってくれたのはテッドだ。




