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「良かったわ。助かったのね。」
「はい。詳しく話を聞くと、どうやら父親と母親が病気だと言うのです。そのため稼ぎ手がなく、薬を買うことができないどころか、家族の生活すらままならないと。病気については子どもだからか詳しくは聞けず、家へ連れて行ってもらったのです。屋根もボロボロで雨漏りどころかほとんど野ざらしの家に、お父様とお母様が寝てらしたのです。痩せ細ってしまい、声を出すのもやっとなようでした。あまりの生活に言葉を失いました。私たちと同じく王都で暮らしていてもこのような食べることすらままならないような生活を強いられる者がいるということに衝撃を受けました。何か食べ物をと思ったとき、お兄様が帰ってきました。たくさんの葉っぱを持って帰ってきたのです。彼は私に気づくと、警戒したそぶりを見せつつも両親に薬の代わりにと薬草をすりつぶして食べさせていました。そしてこう言うのです『ごめんな、今日も薬を買えなかった。代わりに薬草を取ってきたんだ。薬効は眉唾だが、少しは栄養になると思って。ごめんな。』と。何度も両親に謝りながら、すりつぶした薬草を与えているのです。」
エレナは言葉を詰まらせながら話しを続けた。
「あなたがご両親の代わりに働いているの?」
そう聞くと、彼は「そうだ。」と短く答えた。
エレナは自分の名前を言うと、彼の名前を聞いた。
彼の名は『ハオマ』。年はエレナより1つ年上だ。
弟の名は『アシャ』。年は8歳。
両親は内臓がどんどん弱って機能しなくなる病気にかかったそうだ。
元々薬草売りをしていた父の手伝いをよくしていたハオマは、薬草の知識が自然に身についた。
父が動けなくなってからはハオマが薬草を採取して売りに行き、両親にも薬草を摘んできていたという。
エレナは居ても立っても居られなくなり、その時に身につけていた装飾品などをハオマに渡した。
これでいくらかにはなるはずだ。
そしてまた来ると約束して帰った。
毎日ハオマが帰る夕方に訪ねて行き、りんごやバナナなどの消化しやすく栄養価の高いものを差し入れた。
『私はまだ子どもで、お金を持っていないからあげることは出来ない。でも、いくらかの助けにはなれるはず』
そう言って毎日通った。
ハオマたちも初めは遠慮していたのだが、段々と打ち解けて、エレナも朝から薬草採取に同行するようになった。
そして、エレナはハオマに恋をした。
力になりたいのに、無力な自分が歯痒かった。
自分のアクセサリーなども売り、ハオマたちに渡した。
アシャもとても人懐っこく、エレナと遊ぶのを楽しみにしていた。
そして、出会って3ヶ月ほど経ち、彼らの両親は亡くなった。
彼らは孤児となった。
深い悲しみの中、ハオマとアシャからの言葉にエレナは胸が詰まった。
『俺たちは孤児院に行く。俺は孤児院の近くで仕事を探すが、アシャはまだ小さいからな。今まで良くしてくれてありがとう。両親がここまで生き長らえることができたのはエレナのおかげだ。本当にありがとう。エレナと出会えて良かった。どうか元気で。』
まだ16歳のハオマが働き、8歳のアシャは孤児院で生活する。誰にも頼れない。
エレナもまだ子どもで、自分で自立した生活は出来ない。
そのためいくら自分も力になりたいと思っても、何も出来ないことはわかっていたため口にできなかった。
そして、翌日には彼らは家に居なかった。




