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いよいよ出立の時を迎え、執事長へご挨拶をすると、殿下からの預かりものということで首飾りを頂いた。
金の細い鎖に、シンプルな馬蹄型のペンダントトップとダイヤの付いた首飾りだ。
お手紙も入っている。
『クレア、見送りができずすまない。これからもクレアはたくさんのなすべきことを行い、人々の幸せと、自身の幸せを目指していくことだろう。首飾りを贈ろう。馬蹄はUの字になっており、その窪みで幸せを受け止めるという。また、馬蹄を固定する釘の数は7本。馬蹄型は大変縁起の良いチャームであると聞いた。気に入ってくれると良いのだが。身につけてくれると嬉しい。何かあればいつでも知らせてくれ。そなたの成功と幸せを心より願ってある。からだに気をつけて励め。 心を込めて マーティン』
手紙を読み終えるとエレナがニヤニヤと笑う。
「クレア様、幸せものですね!こんなに多くの人に愛されるのですから。もちろん私もクレア様のことを誰よりも愛している自信がありますよ?」
そう言って首飾りを付けてくれた。
馬車に乗り込むと、馬の存在からか首飾りのことがどうにも気になり触ってしまう。
そんな様子すらエレナは嬉しそうに微笑んでいる。
「クレア様、殿下のことはどのようにお思いなのですか?」
女子トークと言うのか?
エレナは楽しそうだ。
「えぇっと、そうね、大変ありがたく思っております。私なんかを気にかけてくださって。王都にはたくさんのご令嬢がいらっしゃる中で、田舎の小娘に過ぎない私にも親切に接してくださいます。殿下はいつもお優しい。いつも私を励まし、背中を押してくださいます。だからこそ私は、前を向くことができるのかもしれません。」
正直に思いを言葉にする。
エレナはニコニコと楽しそうな笑顔で話しを続ける。
「殿下はクレア様のことを特別にお思いですもの。私はクレア様と殿下はお似合いだと思いますけど。」
とんでもないことを言い出すエレナに驚く。
「エレナ、私は婚約者がいる身ですよ?殿下には尊敬の念はあれど、男女の恋や愛などの感情はございません。」
そう言うも、エレナは納得していない。
「そもそもエドワード様とは政略的な関係ですよね。そして、暫定的に婚約者としているだけで、まだどうなるのかわからないご状態ですよね?クレア様はエドワード様のことはどのようにお思いなのですか?」
「エドワード殿はお優しく、私を尊重してくださいます。パートナーとして私のことを支えてくださり、領内のこともよく相談に乗ってくださいます。」
その程度でしか答えられない自分の語彙力の無さなのか、はたまた自分の感情についての理解が足りないのか。
「エドワード様のことを愛しておられるのですか?」
トドメの一撃的な一言を放つ。
「それは難しいですね。エドワード殿のことは家族のように大切に思っています。しかし、恋愛感情というのは無いように思います。おそらくエドワード殿もそうでしょう。あくまでビジネスパートナー的なものかと思います。」
そう言うとエレナはますます目を輝かせる。




