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「ありきたりな答えだろうが、好きという気持ちで『自分の想いを貫く』のが恋で、『相手を想い尊重する』のが愛なのでは無いかと思う。」
「なるほど。だから恋愛小説では結ばれずとも愛し合うという結果となり得るわけですね。」
感情としてはピンとこないが、理論的にはピタっとはまった。
「むしろ恋愛小説を読まぬのでわからぬが、そういうこともあるだろう。私としても誰かを愛するというのは初めてごとだ。女性に好意を持つことも今まではなかった。こんなに惹かれるのはなぜか私にもわからぬ。」
「そういう気持ちがこの世には存在するのですね。不思議です。」
またお茶を淹れて、のんびりとした時間を過ごす。
「クレア、何かあれば…何も無くとも、私を頼れよ。誰よりも力になろう。誰よりもそなたを理解しよう。だから私をもっと頼ってくれ。なんでも話してくれ。」
「ありがとうございます。」
これほど熱烈にアプローチを受けるのは初めてだ。
人と接することもほとんどなかった。
婚約者はいるが、テッドも決められた婚約なので愛はないだろう。とても大切にしてくれているが。
私もテッドを愛しているかと聞かれたとしても、わからないとしか言えない。
お互い尊重し合っているが、男女の愛はおそらくない。
殿下についても同様だ。
大切に思っているし、有り難い存在だ。
好きは好きだが、愛ではないと思う。
そんなことを考えながら、今後の領地の経営についての計画を殿下へも相談し、私の成そうとしていることは成すべきことであり、間違っていないのだから立ち止まることはないと励まされた。
途中何度かまた罪悪感などのあの感情が押し寄せて来たが、その度に殿下は寄り添ってくださった。
何度かお茶の入れ替えにエレナも来てくれた。
2人とも大切な人だ。もちろんテッドも。
私はもう1人じゃない。
こんなにも私をおもいやってくれる人に囲まれている。
もうブレないようにしよう。
私は少しでも皆が幸せに生きられるような世の中にしたい。
誰もが不幸な目に遭うことが極力無いように。
改革は続ける。
テッドが大怪我している以上、私とオリバー殿で採用試験を進めていかねば。
「殿下。今日1日を私にくださってありがとうございました。殿下がお側に居てくださったからこそ、私は心穏やかに過ごすことができました。感謝してもしきれません。お世話になってばかりですが、ゴールドガーデンが発展した暁には、必ずや国のためになるとお約束致します。ご恩に報いるようこれから尽力致します。明日にでも私はゴールドガーデンへ戻ります。もう立ち止まらずに、前を向いて進んで行くと誓います。」
心配そうに私を見つめながら、殿下は頷く。
「わかった。そなたの思うままにやると良い。たまには立ち止まるのは悪いことでは無い。時には立ち止まることも必要だ。そなたのタイミングで、そなたのテンポで進んで行け。そして、たまには私のところに寄り道してくれ。疲れた時には私が手を引いてやろう。歩けなければ背負ってやろう。そなたは1人では無いぞ。周りのものにもっと頼れ。」




