5
婚約はすぐに発表され、婚約パーティーというものが行われた。
反乱の後なのにパーティーなんてと思ったけれど、貴族の習わしとして社交界での繋がりは大切なのだそうだ。
特に新米領主である私はまだまだ若く、周囲の助けを必要とするため、他の貴族たちとの関係性を構築していくことは必要不可欠。
パーティーはとても興味深いものだった。
見たこともない豪華な料理たち。
美しいドレスや装飾品。
気高い本物の貴族の方々。
私みたいなにわかとはわけが違う。
ハプニングは突然起きた。
「クレア様、私は隣にあるローズランドのリンダと申します。この度はご婚約おめでとうございます。
…ところで………クレア様は社交界は本日デビューでいらして?これまで一度もお会いしたことがございませんわよね?貴女のゴールドガーデンといえばかつてはこの国でも3本の指に入る地方ですし、そのディアス家となればお名前くらいは耳に入りそうなものですけれど。どちらかの養子でいらっしゃるの?」
リンダ様と仰るご婦人は本当に不思議そうに尋ねられた。
素直に本当のことを申し上げるのははばかられる。
どうしたものかと案じていると、婚約者のエドワード様が助け舟を出してくださった。
「横から失礼いたします。クレアは幼少の頃よりからだが弱く、よく寝込んでいたものですから中々こういった場には参加できませんでした。先先代のアーノルド様の実の娘ではありますが、先代のオズワルド様の養子となられたので、血は間違いなくディアス家のものですが、リンダ様の予想も間違ってはおりませんね。」
にこやかに答え、リンダ様へも嫌味なく対応してくださった。
「まぁ、そうでしたのね。これは失礼致しました。でもやはり社交場が初めてでいらっしゃるのにいきなりホストを務められるなんて大変ですわね。かつては豪族でしたが、今はただの田舎者と言われぬようお勤めくださいませ。隣である我がローズランドまで田舎者と思われてはこちらもたまりませんもの。」
意外と嫌味ったらしい方なのかしら?なんて思い困っていると、後ろから声が聞こえた。
「そのくらいにしたらどうだ?リンダ嬢。私はローズランドもゴールドガーデンも田舎だとは思ってはいない。大切な国の一部なのだから。その土地も、民も大切な財産なのだ。しきたりやマナーの1つや2つ不適切でも、国や民に実害が無ければ良いのだ。気にすることはない、クレア嬢。これからこの地をよろしく頼む。」
先程ご挨拶だけ済ませたのだが、この国の王太子殿下であらせられるマーティン殿下だ。
「マーティン殿下、温かいお言葉大変ありがたく思います。恐れ多いのですが、リンダ様のおっしゃるとおり私は社交場は初めてなのにいきなりのホストということで失礼なことがあるかも知れません。これから多くのことを学ばせていただきたく存じます。何かございましたら是非ご指摘頂ければと思いますので、よろしくお願い致します。」
深々と頭を下げる私に殿下は言う。
「気に入った。私と結婚しないか?」