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「クレア様、湯浴みの用意が出来ましたよ!ご案内致します!」
エレナはそう言って浴場へ案内してくれた。
「お手伝いはいかが致しましょうか?」
以前滞在した際は手伝い不要と断ったことを覚えていてくれたようだ。
今回ももちろん1人でできるため不要だが、エレナの気遣いは嬉しい。
「ありがとう、エレナ。1人でできるので手伝いは不要なのですが、1人になるのは心細いので、近くにいて話し相手になってください。」
エレナとの時間は楽しい。
会話があっても無くても楽しい。
「前にエレナが言っていた『友達とは』ですが、どんな存在なのか今はわかるようになってきたのです。エレナと居ると安心します。私にとって大切な友人になってくださって本当にありがとう。私も貴女にとってそのようになりたいです。」
エレナは私から見えない位置に控えてくれている。
そしてふふふと小さく笑った。
「クレア様、お気づきでしょうか?最近のお手紙の内容が報告書ではなく、クレア様の顔が浮かんでくるようなものになっています。お久しぶりにお会いした今日も、表情が以前よりもコロコロと変わっているのですよ。今日最初にお会いした時は不安そうなお顔。私を見たときの安心なさったお顔。私がバタバタとした時の笑顔。声だってそうです。今はお顔が見えませんが、それでもクレア様がどのようなお顔で話されているのか、耳で見えております。以前のような美しいお人形さんではなく、血の通った人間らしさを感じます。私はそんなクレア様をもっと知りたいです。もっと力になりたいのです。ただの奉仕の心ではありません。私がクレア様と同じ時間を、空間を共有したいと思っているからなのです。」
この数ヶ月で確かにたくさんの感情を知り、人並みの生活になったと思う。
なんだか涙が出てきたのはなぜ?
湯に浸かりながら、流れる涙をただ受け入れる。
「ありがとう、本当にありがとう。貴女のおかげです。」
声が少し震えたのか、エレナは心配そうにこちらを覗くかどうするか迷っているような影が見え隠れする。
「クレア様、泣いていらっしゃるのですか?あんなことがありましたからね。ゆっくりと心もからだも休めてくださいませ。」
「ふふふ。怖いことを思い出したわけではないのですよ。なぜか涙が出てきたのです。なんなのでしょうね?」
涙の訳はよくわからない。
安堵のためなのか、友の存在に嬉しいと感じてなのか。
私が私になってきた。
何にせよ、負の感情の涙ではない。
良い感情なのだ。
「エレナはすごいわね。耳で見えるだなんて初めて聞いたわ。」
そう言って笑うとエレナも笑う。
エレナの笑顔も、笑い声も、私にパワーをくれるようで。つい私も笑ってしまう。
「クレア様、心の目ですよ〜?私の必殺技です。」
おどけるエレナに吹き出してしまった。
「いやだわ、吹き出すだなんてはしたないことをしてしまいました…でも本当にエレナはすごいわ。私にたくさん元気をくださるのですもの。」
本当に心からそう思う。
ずっと一緒にいられたら良いのに。




