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この声は聞き覚えがある。
「殿下…?なぜここにいらっしゃるのですか?しかもお一人で?」
涙でぐしゃぐしゃな顔で王太子殿下へ問う。
「クレア…そこはまず感謝の言葉をかけて私を労うところではないのか?」
殿下はふふふと優しく笑う。
「助けていただきありがとうございます。殿下、私のせいで危険な目に遭わせてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。」
心の底からの感謝と、申し訳なさが溢れる。
あの大男は私に危害は加えなかったが、テッドも殿下も大怪我を負ってしまった。
殿下の馬が待っており、2人で馬に乗って駆け出す。
「クレア、私は言っただろう。そなたのことを妻に娶りたいと。愛しているのだ。例え婚約者が居ようとも、そなたの動向は日々確認しておる。そなたが誘拐されたと聞き、私もそなたの行方を探しておったのだ。近くの農民がゴールドガーデンの歌が聞こえ、近くに行くと、そなたの名を名乗る声が聞こえたと申したのだ。それで居ても立っても居られず、ここへ来たのだ。無事で何よりであった。怖かったな。たくさん泣いて、落ち着いたらゆっくりと休め。今日は城へ来るがよい。」
馬を操りながらもしっかりと抱きしめてくださる温かで優しい腕に、私の心がとめどなく溢れ出す。
「大変恐ろしかったです。閉じ込められて、このまま死ぬのか、どうなるのかわからない上に、助けに来たテッドが殺されそうになって…。もう気が狂いそうでした。」
緊張の糸が切れて、涙が止まらず、子どものように泣きじゃくる。
殿下は「頑張ったな」と言って更に強く抱きしめた。
「そなたはゴールドガーデンそのものだな。美しく咲き、散ってもその実も美しく、次々にまた花を咲かせる。1年も花を咲かせる強い花。色彩豊かで1年中美しく、見るものを圧倒する。美しいだけでなく、その実はかなり良質な油が取れ、殻も装飾品に加工できると言う。そなたもそうだ。美しく、聡明で、無駄がない。行うこと全てが素晴らしい実を結び、ゴールドガーデンは発展してきた。そなたが居るから。そなたが頑張ってきたから。たまには…私と居る時くらいは頑張らずとも甘えたり、泣いたり、弱い部分を出してくれ。」
殿下のお言葉に嬉しいやら、恐怖やら、安堵やら、最早よくわからない気持ちにいっぱいになっていたが、城に着く頃には大分気持ちが落ち着いた。
「殿下の前では泣いてばかりですね。以前もお胸をお借りしたことがございましたね。」
ふふと笑う余裕が出てきた。
「それで良い。私の腕も胸も、クレア専用だ。いつでも貸してやろう。」
殿下も優しく笑う。
「賊のことなのですが、女が1人と、先程の大男しか私は見かけませんでした。他に仲間がいるかどうかなどわかりません。賊の目的も、私には告げませんでした。私には何も情報が無く、申し訳ありません。あと、私の婚約者のエドワードが助けに来たのですが、返り討ちにあってしまいました。無事かどうか…。」
少しでも早く奴らを捕らえ、平穏な生活を取り戻したい。




