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夜が明けた。
周りの物音を聞いてみるが、人の気配はない。
鍵穴をのぞいてみるが、あまり見えない。
ピンを差し込んでみると、右側にボコボコと段差のような物があり、凹んだところを押してみるとグラっと動く気配を感じた。
この凹凸が鍵の凹凸に合う部分なのだろう。
この凹凸の部分を押さえながらシリンダーを回すのか。
それなら2本必要だ。
もう1本も伸ばして差し込む。
凹凸を押さえきれないから回らないのか?
シリンダーは回らない。
どうしたものか。
気がつくと昼になったようだ。
窓からの光の入り方から私が勝手にそう思っているだけなので、実際の時間はわからないが。
一旦休もう。
指先が痺れたように感覚が無い。
目もなんだかチカチカする。
与えられたパンを一口食べる。
毒は無いのか、遅効性なのか、今のところ体調に変化は無い。
次に水だ。
これも同じく。
半分ほどパンと水を摂り、外を眺める。
また昨日の歌を歌ってみる。
外から草を踏み分けるような足音が聞こえた。
「どなたかいらっしゃるのですか?私はゴールドガーデンのクレア・ディアスです。拘束され、閉じ込められています。どうかお助けください!」
そう叫ぶと、足音は駆け足で遠ざかった。
行ってしまった。
誰だったのだろう。
助けを呼んでくれるならありがたいが。
このまま見捨てられたら。
いや、そもそも自力で脱出するつもりなのだ。
見捨てられても関係あるまい。
助けが来ればありがたい程度に考えよう。
絶望こそが毒なのだ。
そしてまた日が暮れる頃、シリンダーを回すピンを曲げて、テコの原理で回せるのではないかと仮説を立てた。
今までは捻るように回していたが、力がうまく加えられない。
やってみようではないか。
しかし中々開かない。
「クレア?無事だったのですね!」
聞き慣れた声と共に、窓の外からこちらを覗く者が。
「テッド!来てくれたのね!今ここには私だけみたいなの。他に誰か来てくれているの?」
テッドが室内に入ろうとした時だった。
「おい、お前は誰だ?」
ドスのきいた低い声が聞こえる。
奴らが来たか。
彼女ではなく、今日は仲間の男か。
「私はエドワード。クレアの婚約者だ。大人しくクレアを解放しろ。」
男は不敵に笑い、室内から見えないが、テッドと戦いを始めたようだ。
全く見えないが、テッドの痛々しい叫びが聞こえてくる。
どうして良いのかわからず、私も叫ぶ。
「テッド!私は良いから逃げて!とにかく逃げて!」
涙が溢れてくる。
からだが震える。
テッドが殺されてしまうのではないかと、恐怖が襲う。
静寂に包まれた闇の中から、大男がテッドを引きずって室内へ入って来た。
「こいつ、殺して良いか?」
大男がニヤニヤと笑いながら問いかけてくる。
テッドは血まみれになってグッタリしている。
「お願いします。その人は解放してください。どうかお願いします。」
そういうも虚しく、大男は一段といやらしい笑顔を向けて、テッドの小指をあらぬ方向へ曲げた。
テッドの悲鳴が響く。
「お願いですから、その人は解放してください。私が代わりに何でもしますから!お願いです!」
テッドは泣きながらぐったりと倒れこむ。
大男は益々ニヤニヤと笑っている。




