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彼女は答えずにニヤニヤと笑う。
しばらくの沈黙が続き、彼女はパンと水を置いて出て行った。
また戻ってくるのだろうか?
それとも夜にしか私の様子を見にこないのだろうか?
パン1つと、コップ1杯の水。
この食事が1食なのか、1日分なのか。食べるにも配分を考えて行かねば。
多分毒は入ってないと思うが、少量ずつ食べてみるか。
とにかく、生きてここから出ることを考えねば。
ろうそくは彼女が取り替えてくれたため、何とか室内は見える。
外の様子は真っ暗で何もわからない。
彼女が次に来たら、愚鈍な子どものように振る舞い、油断させられないか?
足枷も鎖もびくともしない。
手が解放されたため、いくらか動きようもある。
何とか脱出の糸口を見つけなければ。
髪留めにピンを挿していたのを忘れていた。
手が解放された今、ピンでの解錠を試みても良いかもしれない。
しかし、ピッキングの経験が無いため出来るかどうか。
おそらく彼女らは朝または明日の夜まで来ないだろう。
初日にこれだけ来なかったのだから、明日以降もマメに来るということはないだろう。
やらないよりはマシだ。
ピンを外し、真っ直ぐに延ばす。
カチャカチャとつつきまわしたり、ひねってみたりしたが全く開く気配はない。
もっと錠前について勉強しておけば良かった。
構造がわかれば解錠も出来ただろうに。
なんて。普通に生きていれば、手枷や足枷を付けられたり、軟禁されたりなんてしないだろう。
ピンが摩耗してきたら解錠は更に難しいだろうと思う。
今使っているピンを合わせて、残りのピンは2本。
1本目がダメになっても、何か解錠のヒントが見つかれば良いが、万が一鍵自体を壊してしまったら最早万事休すだ。
慎重に探って構造を理解せねば。
しかし、ロウソクの灯りのみの暗い状態では何もわからない。
破損の恐れがあるため、朝を待つのが得策か。
ひとまず寝よう。
石の床はひんやりと冷たい。
季節は春。まだ肌寒いが、仕方ない。
5ヶ月前までは軟禁状態だとしても自由だった。
あの時は自分でどこかへ行こうという考えはなく、ただ漫然と現実を受け入れて暮らしていた。
今は自分で行動することの大切さをオリバー殿たちから学んだ。
もうか弱い少女ではないのだ。
領主という立場もあり、為すべきことがたくさんあるのだ。
何より、生きたい。
そのためにもまずは休息をとる。
明るくなったら錠前の研究だ。
創意工夫を凝らすことは元々好きだ。
きっと大丈夫。
うまくいく。




