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まずは彼女だ。
次に来たら確認してみよう。
でも猿轡のせいで私の問いかけが伝わるかわからないけれど。
あとは、身代金目的ならば危害を加えられることは無いと思うのだが、私への個人的な恨みの場合。
残念だがきっと拷問の末に殺されるのだろう。
あぁ、ここから生きて出られるのだろうか。
昔読んだ物語ばかりが頭に浮かんでくる。
大人びているとか、しっかりしていると周りから言われるが、私は夢見る少女でしかない。
おとぎ話や王子様に憧れ、いつか幸せになる。
そんな日を夢見て、でも自分で道を開かねばならないこともわかっていて。
ここにテッドが助けに来てくれればまさにおとぎ話のようだけど、まぁそう上手くいかないだろう。
逃げるのが先か、殺されるのが先か。
やりたいこともまだまだあるのに。
まじめに領主としての務めを果たそうとしてきたが、15歳なのだ。
恋もしたいし、友だちと井戸端会議をして恋バナとやらに花を咲かせたい。美味しいものを食べたり、美しいものや風景を見たい。
何より、誰かに思い切り甘えたい。
不安で仕方ない。
このままここで死ぬなんて嫌だ。
そんな人生は到底受け入れられない。
鎖を力一杯引っ張ったり、床に叩きつけたりしてみる。
が、床に傷が付くだけで鎖は切れる気配がない。
届く範囲には何も無く、私にあるのは猿轡と鎖だけ。
猿轡…外せないかしら?
後ろ手に縛られていたら何も出来なかったが、前で縛られているため、動きようはあるのだ。
あれこれと動かしてみるが、ギチギチに固定されていて中々動かない。
思い切って下にずらしてみると、何とか口から外れ、首輪のようになった。
唇が切れてかなり痛む。が、解放された口は軽い。
叫んで助けを呼ぶか?
声を出すと犯人たちが来るかもしれない。
声を出さずともいずれは来るだろうが。
まずは考えろ。いたずらに叫んでも悪い方へ転ぶ可能性が高いのだから。
段々と窓から光が入るようになってきた。
まさか親切に食事を持ってきたりしないだろうが、明るくなったからには奴らは1度様子を見には来るかもしれない。
彼女が来るとは限らない。
私を連れ去った男が来るかもしれない。
1度叫んでみようか。
いや、歌を歌ってみよう。
誰かが歌を聴いて近くに来るかもしれないし、犯人も歌くらいなら気にしないかもしれない。
助けを呼んだら流石に黙らせられるだろう。
歌ってみて、誰かの気配がしたら助けを呼んでみよう。
そしてゴールドガーデンの民謡のような、子守唄のような、特に題名のない歌を歌う。
ここがどこかわからないが、歌がゴールドガーデンのものであることがわかれば、聴いた人はゴールドガーデンの人が居るのだと思うだろう。
私が誘拐されたことを知る人ならば尚更ピンとくるだろう。
と、まぁ十分おとぎ話のようなことを考えていることは自分でもわかったかあるのだ。
でも犯人が近くにいるかどうかわからないし、近くにいた場合に備えて、あまり刺激しないように行動しなければならない。
「白い蕾が開いたら 赤い花びら花開く 開けよ 花よ、その美しい姿を見せよ 寒い冬を越えて。
暖かな日が 照らすように ここにいるよと 叫ぶのだ 今こそ 花よその美しい姿を見せよ 春の陽気に包まれて。
射し込む日差しの鋭さよ 白い花びら赤く燃ゆ 燃えろよ燃えろその情熱の光の先に 夏の強さを見せつけて。
色とりどりの葉の陰に 花は隠れる忘れてと それでも花よ その美しさは隠れえぬ 秋の景色を見つめゆく。
冷たい風に吹かれては 凍えるたびに花は落つ 雪の降る間に 白い蕾を膨らませ また美しく咲き誇る」
ゴールドガーデンに咲く花の歌だ。
領地の名は領地の花の名。
ゴールドガーデンという花は、白い縁の中に真っ赤な模様のある花弁で、冬に咲き、晩秋から初冬に散る。
実は金色に輝き、冬は緑の葉の中に金と紅白の美しい景色を堪能できるのだ。
金の庭。この実のなる様からこの名がついたという。




