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あれから数ヶ月が経った。
今ではゴールドガーデン領は国でも1、2を争うほど栄え、領民の生活環境はかなり改善した。
まだまだ課題は残るが、これから改革をすすめるための礎はできている。
「いよいよね、クレア。」
「ええ。何だか緊張するわ。」
今日は殿下と私の婚約式だ。
来週にはダンの小伯爵としてのお披露目予定だ。ただし、まだまだ子どもなためオリバー殿の補佐の下で、だが。
結婚するまではまだ私が領主であり、伯爵だ。
「エレナも早くハオマと結婚したら良いのに」
ハオマはエレナにプロポーズしたらしいが、エレナがもう少し待って欲しいと結婚を延期しているようだ。
「だって結婚したら自由な時間が減っちゃうと思うともったいないんだもの。もっとクレアと過ごしたいし。王太子妃になっても侍女としてついて行きたいくらいよ。ハオマは庭師の仕事があるからゴールドガーデンに居るって言うし。クレアとはもっと一緒に居たいの。」
私のせいで婚期が遅れているのかと思うと何だか申し訳ないのだが…
特にハオマに。
「ありがとう。ゴールドガーデンにハオマの後を任せられる人材が確保できたら是非あなたたちを王都に呼び寄せたいわね。」
かなり本心だ。何なら今すぐ人材確保へ向け行動したい。
そしてエレナとハオマを王都へ一緒に、と思う。
「エレナ、たくさん支えてくれてありがとう。これからもよろしくね。」
「クレアは私の妹みたいなものだけど、大切な親友よ。こちらこそよろしくね。あなたがいなかったらハオマとも会えなかったでしょう。本当に感謝しているわ。あ、殿下がいらしたみたい。またあとでね。」
そそくさとエレナが退室すると、入れ違いに殿下が控え室にいらした。
「我が妃は他に類を見ないほどの美しさだな。」
ドレスアップした私にお褒めのお言葉をかけてくださる。
「殿下こそとても凛々しく素敵です。」
お互いに褒め合いながら笑い合う。
まだ結婚式でもなく婚約式なのに、とても緊張するのだが、少しだけ緊張がほぐれた。
「殿下、今までたくさん助けていただきありがとうございました。これからは私も殿下や国を支えていけるように努めたいと思います。今後ともよろしくお願いします。」
私の決意表明だ。
「クレアは真面目すぎるぞ。今日は楽しもうではないか。そなたが主役だ。それと、2人だけの時くらいはそろそろ名前で呼んでくれぬか?」
殿下のお名前をお呼びするなど畏れ多いのだが、これを機に関係性を深められたらとも思う。
「…マーティン様…」
恥ずかしさで顔が熱くなりながらそう言うと、殿下はいたずらっ子スマイルで追い討ちをかける。
「様は要らぬ。マーティーで良い。父上や母上は家族だけの時は愛称で呼ぶ。そなたにもそう呼んで欲しい。」
かなりハードルが高いが、勇気を振り絞って蚊の鳴くような声になってしまったが私が「マーティー」と呼ぶと、抱きしめて喜んでくださった。
たくさんの方々にお祝いして頂き婚約式はかなりの長丁場となったが、幸せな気持ちに溢れた私にはこの賑やかさも心地良く感じた。




