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トントントン
ノックの音が聞こえた。時間からするとオリバー殿の朝の報告だろうか。
「どうぞ」
「失礼致します。おはようございます。本日のご予定と、ご報告です。」
オリバー殿が両手いっぱいに資料を抱えて入ってきた。
いつもより少し資料が多いのは私があえて仕事を増やしているせいだろう。
オリバー殿には申し訳ない。
「お願いします。」
オリバー殿から本日のスケジュールを伝えられ、資料についても検討が必要な物、決済のみの物、新たな各部署からの陳情書、進行中の事業の途中報告などを説明しつつ分けて揃えて下さる。
「ありがとうございます。では本日もよろしくお願いします。」
私がそう言うと、オリバー殿は退室された。
入れ替わりにエレナがお茶を持って来てくれた。
「おはようございます。本日の朝のお茶をお持ちしました。」
お茶の説明をして淹れてくれるが、あまり頭に入ってこない。
「ありがとう。良い香りね。」
そう言うとすぐに資料に目を通し飲まずにいたのだが、エレナは大きくため息をついた。
「…クレア。あなた一回手を止めてお茶を飲んで。仕事はお茶の後にしましょう。」
エレナの態度が仕事モードから突然切り替わったが、まだエレナとのお茶の時間では無い。
普段はエレナとのお茶の時間は休憩中ということで無礼講にしているのだ。
仕事中にエレナが態度を崩すことはほぼ無い。
「…わかったわ。頂くわね。」
エレナはお茶のワゴンの脇に立ったまま私のことをじっと見ている。
「とても美味しいわ。でも今日はこれを頂いたらすぐに仕事に戻るわ。」
私は熱いお茶を早く飲み切ろうとすするが、正直味なんてわからない。
「クレア、それ、美味しく無いのよ。」
エレナの言葉の意味がわからず手を止めてエレナを見る。
「それね、何でも無い苦い葉っぱを煎じただけよ。香りだって大してしないわ。仕事に没頭するのは良いわよ。でもね、そんな追い詰められたような顔や態度で仕事に必死になっていたらみんな心配するのよ。不安になるわ。あなたが倒れてしまうのではないかって。」
エレナの言葉にハッとする。
「私、そんなに酷かったのかしら…?」
落ち着いてみると確かに上の空で適当な返事をしたりと中々やらかしていたかもしれない。
「大分ね。オリバー様なんて半分泣きながら『クレア様がどうにかなってしまいそうだ…!』なんて絶望した顔でおっしゃっていたわよ。」




