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私たちが抱きしめ合っているのを見られてしまい、大急ぎで離れたものの殿下の胸元が濡れていたことからも私が何か辛いことがあって、殿下が慰めていたのだろうという雰囲気を皆が醸し出している。
「クレア、ここで皆に伝えても良いだろうか?」
殿下のお気遣いだ。
まだ婚姻についての決定までの期限があること、皆がこの雰囲気でまさかそういうことになったとは思っていないことから、隠そうと思えば隠せるタイミングだ。
でもそれは先延ばしにしても今でも、特に大きく変わりはない。
あえて言うならゴールドガーデン領の統治をどうするかを考える期間が変わるか?というくらいだ。
伏せていても解決するか定かでは無い。
では別に今でも良いか。
殿下へ頷き、了を伝える。
「皆の者、伝えておきたいことがある。正式な手続きはこれからとして、このクレアが私の妃となることを了承してくれた。今後の領地のことなどは追って検討していくが、クレアが王太子妃となる栄誉と、私が素晴らしい妃を迎えられることとなった喜びを皆にも祝福して欲しいと思う。」
シーンと静まり返る。
これは歓迎されていないのかと不安になるほど静まり返っている。
呼吸すら止めているのかと思うほどに静まり、私も何か言うべきか考えあぐねる。
そんな中でエレナが真っ先に沈黙を破った。
「クレア様、おめでとうございます。お幸せにおなりください。本当に…良かった!」
最後は泣きながら祝福してくれた。
堰を切ったように皆が祝いの言葉を送ってくれる。
先の沈黙はどうも私が泣いた形跡から、殿下が婚姻を迫ったのではないかという懸念から反応に困惑したということのようだ。
「クレア、大変名残惜しいが、父上に報告するためにもすぐさま戻ろうと思う。このまま連れて帰りたいのが本音だが、そなたもすべきことがあろう。追って連絡する故、それまで毎日月を見ながらそなたを思う。会える日まで毎夜同じ月を見ようではないか。」
一刻も早く縁談を進める手続きをしたいとのことで殿下は早々とお帰りになられた。
名残惜しい。
寂しい。
切ない。
早く会いたい。
また抱きしめてほしい。
そんな気持ちが込み上げてきたが、殿下のおっしゃる通り、今後の領地のことなどやることをしっかりと引き継いでいかねばならない。
いつでも私が要らなくなっても良いようにと体制は整えてきた。
あとはダンの継承についてなどの話や、それまでの執権としてオリバー殿にご助力頂きたいことなどの話を詰めよう。
ダンの成人までの数年は長いが、あの子は中身はほぼ大人だ。
私の気持ちを後押ししてくれたのもあの子だ。
ダンともちゃんと話さなきゃ。




