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散歩の後はテッドと夜のお茶会の予定だったのに。
部屋に戻らない私を探してくれるかしら。
靴を片方脱いで落としておく。
ここで私の身に何かあったとわかるように、
本当に私は馬鹿だ。
城の周りを回るだけとは言え、夜に一人で出歩くなんて。
あれだけ貴族たちに夜に出歩くなと言った本人が出歩いて、誘拐されるだなんて。
犯人が件の野盗かどうかはさておき、危険だということは念頭に置いて行動すべきだった。
反省してもしかたない。
これからどうやって逃げるかを考えなければ。
とにかく暴れて敵の邪魔をする。
敵は無言のまま、私の鳩尾を殴った。
苦しくて、段々と意識が遠のく。
目が醒めるとどこかの石造りの小屋だった。
手がからだの前面で鎖に繋がれている。
丈夫な床や壁。
窓はあるが、私が繋がれたところから正反対のところにある。ドアは私と窓の間に。鎖のせいでドアにも窓にも届かない。
ロウソクの灯りを頼りに自分の置かれた環境を確認する。
ここからでは窓の外はよく見えないが、光は入ってこないのでおそらくまだ夜だ。
部屋の中に人は居ない。
まだ隣にも部屋があるのだろうか。
誰かがいる気配は特にない。
猿轡をかまされ、くぐもった声しか出せない。
鎖を力一杯引っ張り、あわよくば千切れないかと試してみる。
ガチャガチャと音を立てるだけでビクともしない。
しばらくそんな抵抗をしていると、誰かが入ってきた。
女性だ。
微笑みながら私の近くへやってきた。
「クレア、久しぶりね。って言ってもあんたは私の顔も名前もわからないでしょうけど。」
フンと鼻で笑い、腕を組んで壁に寄りかかった。
「どちら様でしょうか?」
と聞いたつもりだったが、猿轡のせいでうまく話せない。
「何を言っているのかわからないわ。でもそれを取る気はないから。誰かわからない相手に、今後どうなるかわからない自分に絶望してたら良いわ。」
そう言って出て行った。
彼女が主犯?
私を攫ったのは明らかに男性だった。
相手は何人組なのだろう。
誘拐の目的は?
私を見つけてくれるかしら。
テッド。
色々なことを考えているうちに朝を迎えた。
誰も来ない。
あの女性は誰だろう。
私のことを知っていて、恨んでいる?
人に恨まれるようなことをしたかしら?
恨まれる…
従姉妹か?
もし従姉妹だとして、目的はなんだろうか。
身代金?
領主の座?
私の命?
今はまだ私に危害は加えられていないから私も焦らずに構えていよう。
何かまた言ってきたときや、暴力などがあればその時に少しでも情報を得ていこう。
死ななければどうにかなる。




