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エレナは微笑みながら応えてくれる。
「クレアは不器用なんだけど、何にでも一生懸命過ぎるのよ。真面目すぎて、馬鹿真面目。クレアのことは他の人よりはわかっているつもりよ。でもあなたの心の内まではわからないもの。あなたのことはあなたが1番わかっていると思うし、そうでなければいけないと思うの。あなたは芯の強い娘だと思うわ。あなたの望みや気持ちがブレずにちゃんと真っ直ぐであるためにも、あなたがあなたのことを1番理解していなければいけないわ。」
エレナは本当にどんな修行を積んで来たのかと思うほどに私に必要な言葉をくれる。
そう年も離れていないのに。
「エレナはすごいわね。私は自分のことだけで精一杯。きっと私はエレナのことを1番わかっているなんて言えないと思うの。でもエレナのことは大好きだし、1番親しいと思っているし、誰よりも幸せであって欲しいと思うの。こんな中途半端なのに親友だなんて思っているのも申し訳ないけど、それでもそうでありたいの。エレナの言うように、まずはちゃんと自分のことをしっかり理解できるように努力するわ。」
「…そうね。クレアの気持ちをクレア自身がちゃんとわかってあげて、行動もできると良いわね。特に殿下との関係とか。」
意味深な言い方といたずらな笑みで締め括って、エレナは部屋を出た。
殿下との関係。
婚約者候補?で、あっていると思う。不敬かもしれないが良き友人であるとも思っている。
婚約者とは?結婚の約束をすること?
結婚とは?愛する者同士が永遠を誓うこと?でも貴族や王族の婚姻は愛よりも利害関係で決まることの方が多い。
私は殿下のことを好き?好きだわ。でも恋愛的な好意か友情的な好意かわからないわ。
そもそも恋愛って何?相手を恋い慕うこと?
慕ってはいるわ。
でも恋慕うって何?
エレナと殿下が両方ピンチならどっちを助けるかなら、エレナだわ。殿下は多分ご自分で活路を拓ける方だもの。
そうすると友人を優先するということだから、私の好意は恋ではないと言うことかしら。
恋人がすることを想像してみる。
手を繋ぐ?あたたかい殿下の手のひらのぬくもりを思い浮かべる。
何だかからだがあたたまるような気がする。気のせいだけど。
抱きしめ合う?殿下の大きな胸の中に抱きしめられることを想像する。
殿下の鼓動なのか私の鼓動なのか、何だか忙しなく強く拍動しているような気がする。気のせいだけど。
キスをする?これは未経験だし想像できないわ。自分の唇を触ってみても、柔らかい皮膚であるということしか感じない。
顔を近づけて、お互いの息遣いが感じられるのでしょう?そしてレモンの味?そんなわけないわね。
顔があつく、そしてジリジリとするのを感じる。
室内なのに変ね。




