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翌日に自領へ戻ると、私の様子が思ったほど悪くないと皆に思われているのだろう。皆はじめは様子を伺うように恐る恐るという正にそんな態度での挨拶を受けた。
私が清々しさすら感じさせた(らしい)表情であったとのことで、皆普段と変わらない態度に戻った。
「戻りました。留守中何かありましたか?」
皆に声をかけると、皆揃って何事もなく普段と変わらぬ様子であったと応えてくれた。
私たちの周りでは色々なことや色々な思いが渦巻いていたけれど、世界は思っているほど何も変わらないのだ。
いつも通り、普段の日常。
穏やかで心が乱されない生活がずっと続けば良いのに。
いつもと変わらず執務に取り掛かると、オリバー殿が手紙を届けてくれた。
マーティン殿下からのお手紙で、アイリーンの処遇についてだ。
まずはアイリーンは誘拐罪・監禁罪、暴行・傷害罪、王族への不敬罪、詐欺、恐喝、反乱などのできる限りのあらゆる罪状を挙げ、今のところは刑は確定していないが向こう20年は牢から出られないだろうということであった。
罪状としては死刑でもおかしく無いものもあるが、それが認められるかはまだ未定なのだとか。
多くの罪状が挙がっているため、それぞれの検証に期間を要するのだそうだ。
20年後は私は何をしているだろう。
その時私は誰とどこで過ごしているのだろうか。
思いを巡らせていると不意に殿下のお顔が浮かんできた。
殿下からのお手紙を拝読していたためにご尊顔が浮かんだのだろうか。
それとも…
アイリーンは牢に入っている以上は20年後も1人でいることになるだろう。
獄中結婚や獄中出産というものがあることは本で読んだことがあるが、おそらくこの国では難しいだろう。
独房が多い上に、収監は基本的には男女別の塔で管理されるのが慣習としてある国だから。
アイリーンの今後を考えると哀れでもあるが、自身の罪を償うのだから当然と言えば当然なのだ。
何となく沸き起こる罪悪感も割り切るしか無い。
別に私が悪いわけでは無いのだから。多分。
「アイリーンは20年くらいは牢にいることになるだろうと殿下のお手紙に書いてあります。アイリーンが出てきた時、このゴールドガーデンが栄え、美しく幸せに溢れた故郷であるように力を尽くしたいと思います。私だからできたことだと、あの親子では成し得なかったことだと思わせると共に、戻ってきた時に故郷として受け入れてあげたいから。それが私の復讐だわ。」
オリバー殿に決意を伝えると、何故だか益々殿下の笑顔が脳裏に浮かんできたのだった。




