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感情的に怒鳴りつけるように私はアイリーンに問いかけた。
「…そういうしぶといところが嫌い。清廉潔白に生きようとするところも嫌い。才色兼備と言われるあなたの色々な評価を聞くたびに私はどんどん惨めになったわ。お父様たちにすらあなたと比べられて…。だからあなたのそんな生活を見てざまあみろと鼻で笑っていたのよ。私が持っていない多くのものを持っているあなたが、普通に誰もが持っているものすら得られない。私の方が良いものをたくさん持っている。そうして惨めになる自分を慰めながら生きるしか無かったのよ!領主一族としての権威や居場所を無くしてからはもう何も私には残されていないと気付いたわ。所詮は私のものでは無いものばかりだったもの。だから少しでもあなたを不幸にしたかったのに…。結局あなたは運もあるのね。どんな方向に進んでも良い結果になるのよ。本当に気に入らないわ。」
アイリーンは拳を自分の膝に叩きつけながら叫んだ。
ずっと覗き窓のあるこちらを睨みつけながら。
しばらく互いに無言で睨み合い、アイリーンの怒りに震える息遣いと、私の鼓動の音が妙に耳障りだった。
怒りと悲しみと悔しさと、そしてほんの少しアイリーンを哀れに感じる気持ちがぐちゃぐちゃと全身を駆け巡り、心臓が破裂しそうに大きく動くのを感じる。
「アイリーン、私のことを褒めてくれてありがとう。あなたが劣等感に苛まれていたなんて知らなかったわ。」
嫌味たらしくそう言うと、悔しそうに唇を噛んでいた。
私は大きく息を吐き、心を落ち着けるとアイリーンへ話しかけた。
「もうやめましょう。お互いどちらが優れているかとか、互いのものを妬んだりだとか、比べるのはもうやめましょう。私だってあなたが羨ましかったわ。両親と生活して、暖かい部屋で清潔な服を着て温かい食事をお腹いっぱい食べられて、身の回りにも手伝ってくれる人がいて、たくさん勉強をしたり、他のご令嬢とかとも楽しく過ごせて…。羨めばきりがないくらいずっとあなたが羨ましかったわ。でもあなたは私にはなれないし、私もあなたにはなれないわ。自分にあるものや、無いものは手に入れる努力をしていくしか無いわ。もうあなたを妬んだり羨んだりしないわ。あなたを決して許しはしないけどね。」
私の言葉が今の彼女に届くことはないだろう。
彼女の目が怒りに燃えているから。
「所詮はあなたの勝ちで終わるからそう言えるのよ。私はそうもいかないわ。きっとあなたを恨み続けるし、機会があれば復讐するわよ。」
「いつかあなたがあなただけの力で幸せを掴み取ることを願っているわ。」
そう言い残して私は牢を去った。




