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商人からの言質が取れたとて、相手がローズガーデン領主一族が絡んでいたとしたら?
貴族相手に商人の言質だけとなると証拠不十分だ。
領主一族に限らず、貴族が絡んでいれば同じこと。
時期を見ていれば商人が特定できる。
殿下は既に特定されているようだが。
「クレア、商人の正体を知りたいか?そなたのことだ。いずれわかるのだからと頼らぬつもりだろう?」
知りたい。
でも知ったところで今手を出すこともできない。
どうしたら良いのだろう。
どうするのが最適解なのだろう。
私が考え込んでいると、殿下が優しく肩に触れた。
「難しく考えずとも良い。知りたいと思うのならば聞けば良い。聞いてからその後のことは考えたら良いし、時機を見てから考えたり動いたりというのもまた良いだろう。」
確かにその通りだ。
相手がわかれば動きようもあるかもしれない。
「殿下、私は誰がこのようなことを行なったのか、企てたのか知りたいです。そして相手は然るべき処罰を受けるべきであると考えております。教えてください。一体誰が噛んでいるのか。」
私の決断についてご納得頂けたのか、殿下は再び微笑んでおられる。
「そうだ。使えるコネと知恵は利用して良いのだ。見返りが求められる場合もあるがな。私はそなたの笑顔が見られればそれで良い。ではクレア、その商人についてだ。相手はローズガーデンに接するムスカリ領のロベリア商会だ。ロベリア商会はローズガーデンとも取引のある商会でな。最近はロベリア商会がゴールドガーデンの茶葉を買い占めてはローズガーデンへも横流ししているようだ。」
やはりと思わなくもない。
だか、そんなあからさまな取引を行うとは何か裏があるのか?
ロベリア商会が単独でと言うならまだわかる。
ローズガーデンも茶葉の買い占めに一枚噛んでいるとなると、ローズガーデンがことの発端であると考えられても不思議ではないだろうに。
「クレア、ひとつだけ確実なことがあるのだが。こう言ってはなんだが、ローズガーデンのローズ嬢はそなたほどは聡明ではない。いまだに婚約者も決まらぬのも、自分の立場を顧みずに見合い相手に横柄な態度を取るため縁談がまとまらぬのだ。叩けば埃が出てくると言うように、ローズ嬢ならば追及してもすぐボロが出るだろう。残念なことに高飛車で傲慢、立場をわきまえぬ愚か者と言うのが社交界での彼女の評価だ。」
と言うことは、特に物的証拠がなくとも状況証拠だけでも何とかなるかもしれない。




