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自分が微笑んでいることを気付くと、なんだか恥ずかしい思いが込み上げてきたためお礼を述べて座り直した。
「ありがとうございました。もう大丈夫です。」
「なんだ、もう良いのか。もっと寄りかかってくれて良いのだが。心もからだもな。」
いつものいたずらっこのような殿下の笑顔にまた安心できた。
「そうですね。ありがとうございます。また肩をお借りするかもしれません。」
そう言って笑う私に、殿下は意外そうにポカーンと目と口を開かれた。
そのご様子がまた面白く、不敬と思いつつも笑ってしまった。
「なんにせよ、元気が出て安堵した。いつでも頼ると良い。」
「はい。」
なんだか心がふわふわしていると感じた。
張り詰めていた気持ちが緩んで落ち着いたからだろうか?
ひとまず調査団長として訪問してくださったからには、現状をきちんと共有する必要があると考え、こちらの見解を改めてご報告した。
「ローズガーデンとの境付近から急速に被害が拡大しております。誰も見たことのない羽虫が原因なのですが、羽虫が食糧とするのがどうもハーブのようでして、ハーブ類以外の作物は影響が無いという奇妙な状況です。ローズガーデン付近の畑ではこの周辺ほど作付けしておりませんので、あの近辺で羽虫が変異を遂げて繁殖するというのも合点がいかず、かと言って他に考えられる要因なども特に見当たらないのです。個人的には何か人為的な何かによってこのような事態となっているのかと考えておりますが、領主としてそれを主張することは現状ではできませんので…。もし人為的なものであれば理由がわからないのです。何者が何のためにこのようなことをするのか。」
報告をお聞きになると、殿下も意外な情報を教えてくださった。
「ここ最近、ゴールドガーデンの茶葉を買い占めて在庫として抱えたまま販売を見送っている者がいる。その者はローズガーデンのお抱えの商人でな。私はローズガーデン領主とその商人が怪しいと踏んでいる。」
確かにすぐに販売せずに買い占めているのはおかしい。
考えられるのは1つ。
「在庫を抱えて、流通しなくなってきてから高額で販売していくのですね?」
無言で頷かれ、肯定なさる。
「だとすると領主が1枚噛んでいるとなると…その証拠を押さえるのは難しいでしょうね。」
納得いかないが、証拠となるものがないのだ。
「そうだな。証拠を得るのは難しい可能性が高い。しかし、商人に追及することはできる。そこで誰かの指示なのかなどがわかれば何とかなるかもしれぬ。」




