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泣く私の肩を隣でそっと抱き、とんとんと子どもをあやすように静かに私が落ち着くのを待ってくださった。
「…改めましてこの度は殿下のお手を煩わせてしまい申し訳ございません。殿下のお気持ちも考えずに利用してしまうような配慮の無さについても大変反省しております。申し訳ございませんでした。」
私の謝罪を聞くと、殿下は静かに微笑み頭を撫でてくださった。
「良いのだ。さっきも申したように、そなたに会いに行く口実が出来たのだから私は嬉しいのだぞ。そなたはよくやっている。一生懸命に仲間と作ってきたハーブ事業がダメにされるのはさぞ悔しかっただろう。先のことも不安であろうし、ずっと気を張って頑張っていたのだな。こんなに泣いて。今は思う存分に泣くと良い。その分また皆の前では強くあれ。私の前ではいくらでもディアス伯爵ではなくクレアとしていて良い。」
自分でも涙の理由がわからずに戸惑っていたのに、殿下の言葉で納得できた。
そうだ。
私は悔しかった。
悲しかった。
みんなと創り上げてきたものが崩れていくことに。
そして不安だった。
この先領民たちが飢えてしまったり、職を失ってしまったり、子どもたちの未来が奪われてしまうのでは無いかと。
そして私も必要とされないどころか恨まれてしまうのでは無いかと怖かった。
殿下のお気持ちを利用してしまったという後ろめたさももちろん大きな後悔と共にあった。
そういった気持ちが張り詰めていたことを、殿下は見抜いておられた。
私のことを、私よりも理解してくださっている。
有り難いどころか畏れ多いのに、そんなお優しい殿下のお気持ちを利用してしまったとなると改めて後悔が押し寄せてくる。
また涙が止まらなくなったが、涙の理由は理解できた。
だがそれを止める方法がわからない。
「…申し訳、ありません…!わた、くしは…」
嗚咽が止まらず言葉にならない様子に、殿下は優しく肩をとんとんと叩いてくださる。
「謝るでない。良いのだ。そなたの泣き顔も、笑顔も、どんなそなたも私だけが一番知っていると思えば私は役得だ。謝られては私も困る。」
本当に困ったように微笑まれ、私は涙を拭いて殿下に告げた。
「マーティン殿下、本当に…ありがとうございます。私もお会いできてとても嬉しいです。」
殿下といるといつも自分の知らない自分を知ることができるような気がする。
心が落ち着き、涙が止まったが、しばらくこのまま殿下の肩に頭を預けていたいと思った。
気付くと私は微笑んでいた。




