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ようやく学校設備を拡充できると思っていた分、悔しくてたまらないが、それ以上にハーブがどんどん被害に遭っていくことへの悔しさがとてつもない。
みんなの努力の結晶が、ようやく実を結んできたところでのこれである。
「ではそうしましょう。ハーブ畑は一旦全て焼きます。ハウスを建てた畑から順に、一旦別の作物を作って様子を見ましょう。問題なければ二期作目にハーブの栽培を再開していきましょう。それで良いでしょうか?」
私の苦渋の決断に、みな悔しそうに拳を握るもの、唇を噛みしめるもの、涙を流すものさえいた。
ハーブが無ければ加工もできない。
ゴールドガーデンは一旦厳しい財政となるだろう。
当面はハーブ園で収穫した茶葉を少し値上げすることで多少の収益を見込めるものの、あまりに値を釣り上げてしまうと今後の取引にも悪影響が出かねない。
公正な取引を続けていくためにも、しばらくの間はハーブ園のみで凌いでいく。
「それでは焼畑の始めの作物についてですが、何か良い案はありますか?領地の経営的にも、害虫の有無の評価のためにも、領民の食糧確保のためにも、何かすぐに収穫に繋がるものが良いのですが。」
私の提案に様々な意見が出る。
最終的には芋と葉物野菜数種類で話しはまとまった。
問題はその後の話し合いでのことだ。
「クレア様、実は初めの被害状況などを分析いたしましたところ、ローズガーデン領との界付近から徐々に広がってきているのです。あの辺りで羽虫は発生したと考えて良いと思うのですが、羽虫が食糧とするのは主にハーブのようです。ローズガーデンとの境ではあまり作付けは進んでいませんでした。それなのに羽虫があの辺りで変異し増殖しているとなると…おかしいと思うのです。」
ハオマとマリー殿は分析の結果として言葉を濁しつつ報告してくれた。
…そう、人為的なものなのではないかという疑いがあるということだ。
領地間のトラブルともなりかねないため、ローズガーデンへ調査を行うとしても難航するだろう。
かと言って手をこまねいていれば証拠は無くなるだろう。
次から次にローズガーデンとは揉め事が起きるのだなと頭を抱えたくなる。
「王宮に使いを出してください。どなたかに間に入って頂き、ローズガーデンへの調査を依頼していきましょう。あくまでもローズガーデンでの同様の被害が無いかを調査するという名目です。このままではゴールドガーデンを越えて国内でも被害が広がる可能性があるとご報告すれば国が動いてくれるでしょう。」
「承知いたしました。私が参ります。」
速やかにクエンティン殿が使者として名乗りをあげてくれた。
急いで陳述書をしたため、クエンティン殿を送り出す。




