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「リネット…そなたも苦労しておるのだな…。」
殿下も少し引き気味に顔をひきつらせている。
確かにリネットは王家の血筋ではある。
そう考えると嫡男でも婿入りしたいと考える家は少なくないだろう。
次男以下の後継問題の無い男子は、身分さえ釣り合えば婿入りしたいと思うはず。
序列の低い家門がでしゃばるのは確かに色々な問題があるだろう。
マクレガー家にも婚姻によるメリットが無ければ、陰で何を言われるやら。
そう考えるとリネットは高嶺の花状態であるし、身分が釣り合うどこかの御令息は年齢的に既に既婚か婚約中となるわけだ。
「リネットってとっても素敵なレディーなのに。私がお嫁さんにしたいくらいよ。本当に。」
しみじみとそう思えたからこそ口にしてしまったが、そこでハッとした。
またやってしまった。
「クレア…。もう私はどうしたら良いのかわからないぞ。最早私も嫁でも婿でも何でも良いのだが…。」
殿下がガクッと項垂れて呟かれた。
「殿下は嫁にも婿にも行ってはなりませんでしょう?!嫁を取らねばなりませんから!」
慌ててフォローになっていない墓穴掘りをしてしまう。
「その嫁にそなたを望んでいるのだかな…。リネットに取られた。」
子どものように拗ねたご様子で話されるものだからつい笑ってしまった。
「ふふふ、殿下でも子どものようなことをおっしゃるのですね。僭越ながら私は殿下のこともリネットのことも、同じように大切に思っておりますよ。」
私の言葉に殿下は目を輝かせた。
「では私のことも嫁に取っても良いということだな!それならば何も問題ない!ははははは!」
私をからかうかのように笑う殿下に私はまた焦ってしまう。
「殿下!?ですから私は殿下を嫁には取れませんよ?!一国の王太子ともあろう方が何をおっしゃいますか?!」
リネットが私たちの様子を見て吹き出した。
「ぷっ…!やだ2人とも。クレア、ありがとう。気持ちだけ貰っておくわね。でも本当にクレアと殿下はお似合いだわ。容姿も身分も人柄も、本当にぴったりだと思うわ。殿下もご苦労なさっておいでなのはお察し致しますが、私はお2人を応援させて頂きますからね!まぁ私が売れ残ったら第2妃にでも召し抱えてくださいませ。」
「気持ちは有り難いが、私はクレア1人としか婚姻はせぬつもりだ。まぁ責任を感じなくはないのだがな。そこはすまぬ。」
殿下が心から申し訳なさげにリネットへ伝えると、リネットはまたもや笑いながら応えた。
「ですから、『召し抱えてください』と申しましたよ?外交ですとか、社交的な面でクレアをサポートするお役目としてで十分ですわ。それならずっとクレアともいられますでしょう?どこぞの殿方と愛のない婚姻を結ぶよりよほど幸せかと。」




