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殿下は笑いながら応える。
「ははははは!それはクレアに申せ。クレアが承諾してくれればもう王太子妃候補は不要となるのだからな。クレア以外とは婚姻はせぬし、無理やり婚姻したとて世継ぎは作らぬと公言しておるのにみな耳は付いておらぬようだからな。どうしたものか。リネット、すまないな。」
殿下は本当にすまないと思っているのか甚だ疑問になるような超絶ビッグスマイルでリネットへ謝罪されているが、リネットは焼き菓子をつまみながらため息をついた。
「殿下?クレアにプレッシャーをおかけになるのもほどほどになさいませ。クレアも気負わなくて良いのよ?そりゃあ早く縁談に決着が付けば私の縁談も進めやすいだろうから有難いけど、私のこととあなたのことは別のお話しなのだから。」
リネットは本当に優しくて良い子だ。
心からなぜ縁談がまとまらないのかが謎だなと気になってくるくらいに。
「ありがとう、リネット。じっくりと考えさせて頂きますので、殿下。リネットも縁談がまとまると良いのだけれど。」
私の言葉にリネットはいたずらっ子のような笑顔を向ける。
「リネットならすぐに婿入りしたい者たちが名乗りをあげるだろうに。なぜ早く婿をとらぬのだ?」
殿下は本気でよくわからないという目でリネットを見る。
「殿下のせいですよ。適齢期という時期に婚約者候補に上がるも、結局殿下が誰とも結婚しない宣言をなさいましたから。私との縁談も破談。ですが、もう適齢期を過ぎていますもの。同世代の殿方はもう既婚である方ばかりですわ。私が婿を望めるのは、婿様も適齢期を過ぎているか、私よりだいぶ若い方かですわ。」
リネットの恨み節に殿下は笑顔を返す。
「騎士団にも次男以降の未婚の者たちはおるぞ?嫡男はそなたの家に婿に出せないが、家督を継がぬ次男以降の者たちは騎士団に所属するものも多い。何度か打診はあったはずだか?」
リネットはまたしても最大にため息をついた。
「殿下、そんなことは承知いたしております。しかし、騎士団の殿方も『婿に入るのに相応しい家柄ではないので』と断られてしまうのですよ。それもこれも王太子殿下と釣り合う令嬢という勝手な評価のためです。みな尻込みしてしまうのですわ。ただでさえ王家と縁戚となるのですから。いつぞどこぞの伯爵家などから嫡男を、などというお話しもありましたが、さすがに15歳も離れておりましたし、前妻と離縁なさった方でしたのでお断りさせて頂きましたわ。」
はぁ、と大きなため息を吐き、リネットは俯く。




