359
殿下のお言葉に、ネビル大臣は自身の出過ぎた発言に気づいたようだ。
「…いえ、クレア様の資質は未来の国母たるに相応しいでしょうが、ご身分と後見からも考慮すればリネット様の方が相応しいのでは無いかと…。国内の貴族たちも、王太子妃としてはリネット様の方が納得がいくのではないかと思いまして…。出過ぎた真似を致しました。申し訳ございません。」
たじたじになりながらも答えていたが、最後は殿下の圧に耐え切らずに引き下がってしまった。
ものすごく居た堪れないこの空気に耐えきれず、私も口を挟むことにした。
「殿下、ネビル大臣のお考えは正しいと思います。私は家柄も生い立ちも、これまでの教育についても、何もかもがリネット様に劣りますもの。リネット様でしたらどなたも不満なく受け入れられますわ。要らぬ争いを避けるためにもという点では大臣のお言葉は筋が通っていて的を射ております。」
私の言葉に殿下は大きなため息を吐いた。
「そなたは本当に…。それほどまでに私との縁談が嫌なのか。」
殿下の言葉にハッとする。
確かにこれでは縁談をお断りしているようにも捉えられる。
流石にお約束を反故にするつもりはないため、まだ結論は出さないが、この場でそのように捉えられる言動はしてはならなかった。
「失礼ながら申し上げます。クレア様は歳若くして領主としての功績が認められ伯爵位を賜るほどの能力を有し、後見としてはスペンサー公爵もついていらっしゃるお立場。大臣、一体どこに不足がお有りだと申されるのか。国内を見渡しても、これほどまでに素晴らしいご令嬢は中々見つからないでしょう。当家のリネットよりよほど王太子妃として相応しいでしょうな。」
マクレガー宰相が私を庇うような発言をなさる。
「僭越ながら私も。当家のリネットはまだまだ世間知らず。身分も家の物であって本人には何の功績もございませんわ。リネットのどこが王太子妃に相応しいとお思いになられたのか存じませんが、他にもそのようにお考えの方がいらっしゃると?私はクレア嬢こそ相応しいと思いますけれど?」
リリアナ様までもが私を庇うようにネビル大臣へ問いかけるように圧をかける。
庇ってくださるのは有り難いが、リネットを溺愛しているはずのご両親が、リネットの立場を下げてまで擁護してくださるのはなぜだろう。
ネビル大臣を見ると、誰も大臣を擁護するものも無く青くなって床にへたり込んでいた。
意を決し、私も空気を変えようと発言する。
「マクレガー宰相様、リリアナ様、お気遣いありがとうございます。ネビル大臣も国を思えばこそと争いの火種を憂慮されていたのでしょう。仰る通り、私は王太子妃としてどころか貴族としての教育も受けておりませんし、そもそも貴族としては新参同然です。リネット様の方がとお考えになる方がいらっしゃるのも充分納得しております。ただ、私もこれからについては皆様からのご指導・ご鞭撻頂きまして成長していけたらと考えております。皆様に見守って頂ければ幸いです。」




