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ひとしきり催しも終え、舞踏会というだけに目玉と言えるダンスタイムとなった。
殿下と2曲ダンスし、3曲目以降は壁の花を決め込もうと思ったのだが、他の殿方からダンスの相手を申し込まれたりと中々透明人間になれそうにない。
少し体調が悪いふりをしてお誘いをお断りし、会場を眺めることにした。
殿下はリネットと3曲目を踊っているところだ。
まさに美男美女。
身分的にも釣り合いがとれている。
しかも仲の良い従兄弟同士。
ダンスも息が合っており、しかも楽し気。
私なんかよりよほどリネットの方が殿下の妃として適任だろう。
やはり私では力不足だ。
他の招待客と同じように2人を見つめていると、ふと胸のもやもやする感じに気づいた。
何が気になっているのか?何が引っ掛かっているのか?
しばらく考えていると、ようやく心当たりに気付いた。
お互いが望んでいないからといって、この2人の縁談がなぜ進まなかったのか?
そうだ、それが気になっているのだろう。
王家に生まれて王太子であられるのに自分の一存で縁談を拒否できるのか?
リネットも公爵家令嬢で、しかも王家に連なる血筋。いくら年齢が少しばかり適齢期を過ぎたとて引く手数多だろう。
何ならいくら2人が拒否しても、形だけでも婚約あるいは婚姻を結ぶことになってもおかしくはないだろう。
それにしてもお似合いの2人だ。
2人がダンスを終えて戻ってきた。
「クレア、お待たせ。殿下をお借りしてしまってごめんなさいね。あとはまたお2人で楽しんでいらして。殿下もありがとうございました。とても楽しかったですわ。」
リネットはそう言ってきれいなお辞儀で微笑む。
「お2人がとてもお似合いで見惚れてしまいました。ダンスも息がぴったりでしたし、周りの人たちも釘付けでしたね。」
私の言葉にリネットは少し困ったような反応を見せた。
「…ごめんなさい、クレア。殿下とは本当にただ何となく踊らせて頂いただけなの。そんなつもりは無かったわ。」
そんなつもり?
はて何のことやら?
「リネット?私はただ本当に素晴らしいダンスだったなと思っただけよ?そんなつもりもなにも…どういうこと?」
「え?」
私とリネットはお互いに頭上に『?』が飛び交っていた。




