350
リネット曰く、「お母様は良妻賢母を具現化したようでありながら、優れた軍師のように流れを読むと共に柔軟に周りを巻き込みながら最善へ導く」とのこと。
さすが女王様へと担ぐ派閥ができたほどの才媛。
噂はきっと全て誇張ではなく真実なのだろうとリネットと結論づけ、遠くからでも目を引く美貌のリリアナ様を2人で目で追った。
リネットと話していると、このままでは私までリリアナ様信者になりそうだ。
話しを変えつつ今の社交界のことや、流行について、貴族の恋愛事情などを教えてくれた。
「クレアって本当にそういう話に疎いのね。恋愛関係の話しは興味無いのかしら?」
「そうですね、身近な人の話しならば興味津々ですが、それほど接点のない方々の恋愛事情にはあまり関心はありませんね。リネットはそういったお話しは無いのですか?」
リネットは少し考えながら、カラッと笑った。
「今は無いかも。前はね、マーティン殿下のお妃候補にも上がっていたのだけれど、その間は縁談もストップしてたのよ。で、殿下が結婚する気が無いと明言されてからは私たちも縁談を改めて考えていく必要が出てきたのだけれど、その頃には優良株は既にお相手が決まっていたの。妥協するとなるとかなり条件も悪くなってしまうし、慎重にすすめようということになったのだけど、『その歳で婚約者も決まっていないのは、何か問題があるからではないのか?』って身構えられちゃうから中々決まらなくて。そうこうしてたら、私が今19歳なのだけど、完全に行き遅れちゃったという顛末よ。最早殿下を恨むレベルでお相手が見つからないのよ。」
貴族の縁談というのは中々難しいことを考えなければならないためすぐにどうこうできないことのようだ。
「リネットは縁談で婚約者を決まるのを待つだけなのですか?恋愛結婚はなさらないの?」
ふとした疑問を口にしてしまったが、リネットは気を悪くすることもなく応えてくれた。
「それはもちろん素敵な殿方に出会えればね。でもアカデミーでもそんな出会いは無かったし、卒業したら尚更出会いなんてないもの。夜会で出会いを求めるとすれば、やっぱり条件が大分下がった殿方しかいないわ。だって好条件の殿方は既に決まったお相手がいらっしゃるのだもの。ただでさえ侯爵家というだけでも高嶺の花扱いよ。それが宰相家なのだもの。母は王家の血筋だし。殿方は遠巻きにしか私を見ないわ。まるで珍獣よ。」
「ち、珍獣ですか…。ご苦労なさっているのですね。」
やはりリネットは面白い。




