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そして迎えた舞踏会当日。
私は当然と言えば当然だが、マーティン殿下にエスコートして頂くことになっており、周囲の方々へのご挨拶も私が赴くよりもわらわらとこちらへ来てくださる状態だった。
そんな中、宰相であるマクレガー侯爵と夫人、ご令嬢がいらした。
侯爵家というだけでも周りからしたら格上であるが、マクレガー夫人その人こそが別格の存在だ。
マクレガー侯爵夫人ことリリアナ様は、国王ギデオン陛下の異母姉。国内きっての才媛で、男子でないことを周囲からは相当惜しまれたという。
何なら王配を迎えて女王にとまで推す派閥ができたほどだそうだ。
国の混乱と争いを避けるために、リリアナ様は自らマクレガー侯爵家へ降嫁し、王室の跡目争いは終息した。
当時は一介のの王宮政務官にすぎなかったオースティン様が侯爵として爵位を継ぐ頃には、最年少で宰相まで登り詰めた伝説も、リリアナ様が陰ながらお支えしたためであると有名なお話しだ。
リリアナ様は優雅で優しい立ち居振る舞いであるが、相手を自分の思い通りに手のひらで転がすことができるほど優れた人物であるらしい。
全ては人からの伝聞なのでどこまでが本当で、どこからが誇張されたものなのかはわからないが、穏やかでいかにも淑女の鑑というこの美しいご婦人にしか見えないこの方は、社交会の影のボスと専らの噂である。
「これはこれは、叔母上。ご無沙汰しておりましたが、お変わりありませんか?オースティン殿とは政務でよく顔を合わせているが、叔母上とは中々会えないのでどうしているかと気になっておりました。リネットも久しいな。最後に会ってからはもう半年ほど経つか?そなたも変わりなく元気そうだな。こちらのご令嬢はクレア・ディアス伯爵だ。恥ずかしいが私が今求婚していることは知れ渡っておると思う。」
オースティン・マクレガー宰相を立てるようにリリアナ夫人は一歩下がってカーテシーをし、続いてリネット嬢もカーテシーをなさった。
宰相がはじめにご挨拶なさり、それからリリアナ様、リネット様の順にご挨拶を頂いた。
「オースティン・マクレガーと申します。何度かお目にかかったことはございますが、正式にご挨拶するのは初めてですね。以後お見知り置きください。」
「私は妻のリリアナと申します。マーティン共々今後末永くお付き合いできると嬉しいわ。マーティンも元気そうね。噂のお嬢様は噂通り可憐で美しいお姫様なのね。」
「私はマクレガー家が次女のリネットと申します。クレア様とは年も近いので、今後仲良くして頂けると嬉しいわ。マーティン殿下とは従兄弟なので昔から兄妹のように仲が良いの。」
華やかな方々だが、気取らずフレンドリーに話してくださったため、私もとても話しやすかった。
「ゴールドガーデン領主、クレア・ディアスです。まだまだ若輩者で未熟ですので、ご高名な宰相家の方々にお会いできて光栄です。是非ともご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。リネット様もこちらこそ是非仲良くして頂けると嬉しいです。」




