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「ありがとう。でもあなたは子どもらしく楽しくのびのびと育って欲しいわ。お友だちとも仲良く楽しく過ごすの。どちらも私が子どもの頃に得られなかった経験よ。あなたもここに来る前はそうだったでしょう?まだ私もオリバー殿たちもみんないる。あなたが無理して大人にならなくて良いのよ。」
「ですが、僕は今学校に友だちも居て、姉様やエレナさん、ハルバードさんや色んな方とも遊んで頂いたり、お話ししたりしてとても楽しく過ごせています。僕だけ楽しいことばかりで、何にも出来ないままなのは嫌なのです。」
ダンの焦燥感のような気持ちもとてもよくわかる。
わかるからこそ無理をして欲しくない。
「私も。すごくダンの気持ちがわかるわ。色んな気持ちがうるさいくらい自分を責めるの。独りで居ると特にね。『もっと頑張れ』『もっと結果を出せ』って心の中のたくさんの自分の声が聞こえるような気がしてね。誰も居なくて、静かなのに、そんな心の声がうるさくて、余計に心がざわつくのよ。その心のざわめきを鎮めるためにもっと頑張らなきゃって焦ってしまうのよね。でもね、ダンにはそんな気持ちになって欲しくないわ。『子どもらしさ』というのも今の内にしっかり学ぶべきよ。人に甘えるということも。私はどこまでが甘えになるのかの境界線がわからないの。だから一緒に働いていても、何でも自分でやらなきゃいけないって思ってしまうのよ。でも私のできることなんてたかが知れているわ。だから周りに頼りながら仕事を回さなければならないのだけど、その割り振りがとても苦手で、だから効率も悪いのよ。だからこそその反省をあなたに伝えることで、あなたはしっかり『今できること』に子どもらしく楽しく過ごすということをして欲しいわ。まだそこまで頑張らなくて良いのよ。お勉強とか、お友だちとの関係づくりとか、そういうことは全力で頑張って。でもまだ大人のようにはなろうとしないで。かわいいダンのままでいてね。」
私の一人語りを静かに聞いてくれるダンは、何かを考えながら静かに頷いた。
「わかりました。…姉様と2人だけの時は前みたいにするね。僕、楽しいことを楽しいと思いながら夢中になれるよ。でもね、途中でやっぱり、僕ばっかり楽しくて良いのかなって思っちゃうんだ。これからは気にせず楽しいまま過ごしてみるよ。お勉強とか、僕が出来ることは頑張るから、姉様と2人の時はたくさん甘えさせてね。」
少しずつ重くなってきた瞼を一生懸命に開きながら、考えたことを言葉にしてくれたようだ。
「ええ、もちろんよ。私もあなたの姉としてたくさん弟に甘えることにするわ。」
私がそう言うと、ダンはへへへっと小さく笑って、そのまますぐに寝息を立て始めた。
こんな穏やかな気持ちになれるのはいつぶりだろう。




