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仕事にもそれは活かせるだろう。
どうすればみんなで楽しく仕事に取り組めるか、楽しい結果を生み出せるのかを考える。
これからは学校を作るという目標もあることだし、子どもたち相手なら尚更私自身が楽しく遊ぶことを知らなければならない。
そうでなければ暇つぶしに遊ばせ、あとはひたすら勉強というつまらない生活をさせてしまうかもしれない。
まぁ指導する先生がそんなことにならないようにしてくれるだろうが。
視察の際に私が楽しめていなければ、きっと子どもたちは見破る。
そう考えるとやはり必要なことなのだ。
そんなことを思いながら数日が経過した。
続々と領内の条例が定まり、他領からは疎ましがられているが、領民たちからは貴族・権力者だからと泣き寝入りせずとも良いことで喜ばれている。
ただ、やはり布令を出すたびに、字が読めるものとそうでない者の差がある。
そこは皆不便に感じているのを視察の度に確認している。
やはり識字率の向上は必要だ。
領民たちもそれを望んでいるということから、学校設立については私の計画よりも早く着手することが叶った。
幸い、子どもたちも以前ほど家業の手伝いをせずとも生活できる水準まで領民の生活は豊かになってきた。
それもこれもハーブ園関連産業の成功ゆえだ。
どんどん規模も拡大し、加工についてもハオマ主導で手を広げている。
あとは意外にもアシャが調香する香油が、貴族女性に大ウケしたのだ。他の調香師のものも好評なのだが、アシャの調香したものは桁違いの人気ぶりだった。
テーマに沿った香りを調香し、なおかつアロマテラピーの効果も発揮するため、浴後のマッサージや、日々の髪や肌の手入れ、香水がわりにと香油はかなりの需要がある。
アシャの才能は、調香師たちの間でも話題になっている。
周りが忙しくなるにつれ、問題も出てきた。
…ダンだ。
遊び相手、話し相手がますます減り、最近は寂しがるくせに平気なふりをして強がっていた。
「クレア様、僕のことはお気になさらないでください。お忙しいのに来てくださるだけでも有難いと思っています。」
まだ小さな子どもが私や周りを気遣っているのはなんとも心が痛い。
「ねぇ、ダン。私のことは『クレア姉様』って呼んでくれないかしら?あなたは今はもう正式に私の弟よ。弟が姉に甘えるのも、姉が弟に会いに来るのも、当然のことだしむしろそうすべきよ。あなたが忖度する必要はないわ。私も、周りの人たちだって、あなたを好きだし、本当に忙しい時はそう言うし、そう言う時の方こそがあなたに申し訳ないくらいなのよ。あなたは気を遣いすぎよ。あなたはもう『ダンドリオン・ディアス』よ。将来は伯爵家を継ぐ者なのだから、もっとわがままになって良いのよ。」




