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殿下はおどけるようにおっしゃった。
「ありがとうございます。少し気が楽になりました。殿下は素晴らしいですね。人は生きているだけでも価値があるという考え方は今後大切にしていこうと思います。確かに、ダンのことなどを考えている時は私もそう感じておりました。ですが自分自身には中々…。殿下は何をきっかけにそのようにお考えになられたのですか?」
殿下は王族の中でも王太子という特別な存在だ。
生きているだけで価値があるのは当然だ。
でも、他者に対してもそのようにお考えになられるのは、何かきっかけがあったのではないかと思った。
「私は特殊な環境で生まれ育ったため、周囲からはそのように言われていた。だが、周りのものは誰もが『自分の存在なんて取るに足りない』と申すのだ。『私が王族であるから』大切なのか、『私が私であるから』大切なのか。自分のアイデンティティについては子どもの頃から何度も考えることがあった。そんな時、侍女や護衛騎士などと接する内に、彼等のことも大切に思う気持ちが私の中にあることに気づいた。王族でない彼等にも人から大切にされるに値する存在であることに気づいた。それからは会ったこともない彼等の家族のことも大切だと感じた。城下の者たちも、国民全ても大切だと感じた。それからは名も知らぬ民でさえ、笑顔で居てくれればそれで良いと思うようになったのだ。あとは、そうだな。そなただ。そなたが側に居るだけで私が幸せな気持ちになれるのだ。それだけで私には十分価値のある存在だとは思わぬか?何かを為さずとも、そこに居るだけで十分なのだ。何なら側におらずとも、そなたがどこかで頑張っていると思うだけで私も頑張れるのだ。」
殿下は殿下なりのお立場から、様々なことをお考えになられているのだ。
「殿下のお考えにひどく感銘を受けました。未来の国王としても、民草を思うお気持ちを幼少の頃からお持ちなのですね。素晴らしいと思います。私の価値については、何だか大層な評価に恐縮ですが。」
私も、殿下やどこかで頑張っているテッドのことを思うだけで頑張ろうと思えるなと気づく。
エレナも、どこかにいるハオマをずっと想って頑張ってきた。
人の価値は何かをせずとも、その人がその人らしく在るだけで十分。それは私も。
そう思うだけで肩の力が抜けるのを自覚した。
私にできることなどたかが知れているのだから、無理して気を張ってばかりいる必要はないのだ。
できることをできる時に出来るだけ。




