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「クレア、そなたは気負いすぎる。何に対しても懸命に真摯に向き合うのは美徳だがな、私は『こうしなければ』『こうでなくては』ならないということは世の中にはそれほど多くはないと思っている。全てに完璧な解を求めることは悪いことではないが、そのために無理をしてはならぬ。心も身体もな。そなた自身の成長はもちろん望ましいが、そなたが思うほど周りは完璧を求めてはおらぬ。領地のことに関してもだ。気負いすぎるでない。私はありのままのそなたを愛しているのだ。」
殿下とは文通でも仕事のことなどを相談することも多いからこそ、私の考えや今の状況や生活が想像できてしまうのだろう。
成り上がりの伯爵、と影でコソコソと言われることが嫌で、何とか結果を残そうと思っているし、そのためには完璧な私になる必要があると常々思っている。
それに私自身が自分の存在価値を見出すためにも、貴族令嬢としても、伯爵としても、領主としても完璧でありたい。
周りの人たちに迷惑をかけないためにも。
でも周りはそこまで私に完璧を求めていないのか?
本当に?
完璧でなければ足元をすくわれるのではないか、完璧でなければ私やゴールドガーデン、ひいては爵位を下さった王家の評価が下がるのではないか?
完璧でなければ、私は不要なのでは無いか…?
完璧を目指しても完璧にはなれなくて、焦ってしまうけれど空回りはしたくなくて。
「時々思うのです。私に価値が無くなって、いつかまた昔のように独りで生きていかなければならないのではないかと。領や国のためになることをなせば、少なくとも私の存在価値はあります。だから私は必要としてもらえる。そう思って完璧でありたいと願うのです。…ですが、完璧でなくとも許されるのですか?」
不安を吐露する私に、殿下は優しく微笑む。
「そなたは思い違いをしておるぞ。人というのはな、誰しも価値があるのだ。命はもちろん価値あるものだ。存在も価値あるものだ。生きていようと、死していようと、誰かが存在すること・存在したことによって誰かに影響を与える。それは周りの者にも、噂で聞いた者にも、何かしらの影響を与えている。良くも悪くもだ。そなたは善く生きようとしている。それはそれだけで価値がある。少なくとも私は、そなたが私に笑いかけてくれるだけても幸せだと感じるほどに影響を受けているのだ。何かを為さずとも、笑ってくれるだけで良いのだ。善良に生きるそなたは心根も美しく、だからこそ笑顔にも人を癒す力があるのだ。何でもできることに越したことはないが、それでそなたの笑顔が消えては私は寂しくなるぞ。それに、そなたが完璧過ぎては私の立つ瀬が無いではないか。」




