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「マーティン殿下、このように素敵なお茶会にお招きくださりありがとうございます。…いえ、このお茶会をとても素敵なものにしてくださりありがとうございます。」
そう言うと、殿下は少しはにかみながら微笑んだ。
「喜んでもらえたようで良かった。以前桜を喜んでくれたであろう?花が好きなのだろうとまた用意してみたのだ。」
殿下が私のために用意してくださったというだけでも有難い。
「マーティン、この花もそなたが開発したのだろう?」
陛下の言葉に殿下は頷く。
「はい。これは通常春に咲く花ですが、四季咲きになるように交配し、温度などの条件を含め、植え付けの時期に合わせて咲くようになっております。…だからなクレア、そなたが望めばいつでも花を咲かせて見せるぞ。」
「あら、お熱いこと。」
国王親子のプライベートな時間はこういう感じなのか、と微笑ましく思った。
そして、やはり殿下はすごい。
何がすごいかなんて上手く説明できないけれど、こんなに素敵な花をいつでも咲かせることができるなんて。
しかも両親の前でもサラッと口説き文句のようなことまでおっしゃるなんて。私も耳まで赤くなっているに違いない。
顔が熱い。何だろうこの感じ。
「殿下の植物の研究は素晴らしいですね。殿下の治世ではきっと年中花が咲き、明るい世界になることでしょう。」
こころからそう思った。
「そなたのためならば花園を造ろう。国中で花が咲き、様々な実を結ぶように、平和で明るい治世にしてみせよう。約束だ。だからそなたに1番近くでそれを見ていてほしいのだ。私の育てる国がどのような花を咲かせ、実をつけるのか。私もそなたの花のような笑顔をそばで見たいしな。」
殿下の真っ直ぐな視線に堪えられなくなり、目を逸らす。
私なんかがそばにいるなんておそれおおい。
でも何だか殿下の花をもっと見たいとも思う。
「わしらのことを忘れておるだろう?まったく。クレアよ、前にも申したと思うが、こやつは結婚には全く興味がなかった。ゆくゆくは無理矢理にでも縁談をすすめるつもりではあったのだが、そんなこやつが親の目も憚らずに口説くほどそなたを想うておるようだ。親としてはな、息子が人を愛するということを知ったことがとても嬉しいのだ。王としてもな。王となると民を愛し、国を愛する必要があるが、愛を知らぬままに王となるのではないかと心配だったのだ。それではただただ重圧だけがのしかかってくる。親バカかもしれぬが、マーティンは本来優しい心根の持ち主だ。国中を花でいっぱいにするという夢からも理解できよう?だからこそ、愛を知るということは大切なことだと心配だった。本当に心配だったのだ。息子に愛の何たるかを教えてくれたこと、礼を言うぞ。」




