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広間の入口から見える壁は一面に色とりどりの花が飾られており、むしろ花が壁になっている。
オブジェなどは特に無いが、その分花で作った動物の人形が中央にあり、リスやウサギなどの小動物を模したそれらがまるで戯れているかのようにそこにいるのだ。
通路はまるで花の道のように通路の脇に花が寄せられており、テーブルへと向かう。
華やかな部屋に対し、テーブルには一輪挿しの花がいくつか生けてあり、真っ白なクロスのシンプルさも相まって落ち着いた印象だ。
「とても素敵…」
思わず呟いた私に、執事さんは微笑む。
「殿下に直接お伝えくださいませ。お喜びになります。」
「はい。」
そして席につくと、殿下や国王陛下ご夫妻が広間へいらっしゃった。
慌てて立ち上がり挨拶をすると、カーテシーをする私へ王妃殿下が声をかけてくださった。
「久しぶりね。少し見ない間に益々美しくなったのではないかしら!どんどん大人の女性の顔になっていくわね。私にも娘が居たらと思ってしまうわ。かわいいもの!」
エレナの言う通り、何だか大丈夫な気がしてきた。
大丈夫って何が大丈夫なのかわからないが、とにかく大丈夫そう。
「大変身に余るお言葉、有り難く存じます。王妃様のお美しいお姿に、私も憧れの念を抱かずにいられません。」
「堅苦しい挨拶は抜きにして、早速席につこうではないか。」
国王陛下のお言葉で席につき、陛下が笑う。
「この広間についてどう思ったか?」
思ったままに感想を述べることにした。
「花々の美しさを余すことなく表現されているのだと感じます。動物達の様子を模したあの飾りは驚きました。とても可愛らしいですし、まるで生きているような気がいたしました。壁も彩りが美しく、派手すぎず華やかな印象を受けます。テーブル周りはシンプルになっているので、落ち着いてお茶や菓子を頂けるような気配りを感じました。花の道も進む際に心が躍るようでした。とても素敵すぎて、きっと私はこのお茶会のことを忘れられなくなるのだと思います。」
うっとりしながら答えると、陛下も満足そうに微笑む。
「うむ。これはマーティンがそなたを想って計画し、準備したものだ。気に入ってもらえて良かったな。」
「そうよ、この子ったら朝からそわそわと花がずれてないか何度もチェックして、もっとこうしようか、こっちが良いかあっちが良いかってブツブツ言いながら手直ししてるんだもの。笑っちゃったわ。」
王妃殿下もマーティン殿下を見ながら笑う。
「母上、それは言わないでいただきたかった…。」
そう言う殿下は耳まで真っ赤だ。
国王陛下も、王妃殿下も、王太子殿下も、それぞれいつもと違うとてもプライベートな空気感で和やかなムードとなった。




