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そして迎えた当日。
早朝から緊張しっぱなしであるが、なんと午前のお茶会、昼食、午後のお茶会と王宮で過ごすのだ。
しかも午前のお茶会は国王陛下と王妃殿下もご同席なさるのだ。
緊張しない方がどうかしている。…と思う。そのはず。
「エレナ、私は粗相をしないか不安でなりませんよ。もうなぜ四半日も王宮で過ごすことになったのでしょう。」
半ば愚痴となりつつある弱音を吐き、身支度後に部屋をウロウロしている私にエレナは言う。
「何度も申し上げますが、大丈夫です。国王陛下も王妃殿下もクレア様のことは本当の娘のようにお思いのところがありますし、多少の粗相は見逃されるでしょう。むしろ『そんなところすらかわいい』くらいの反応をなさるのでは、と予想しております。王太子殿下は言わずもがな。とにかく、クレア様の社交におけるマナーは問題ないと思っております。緊張なさるのは理解できますが、緊張するあまり失敗しては元も子もありませんよ。腹を括ることも大切です。」
確かに王室の方々はとてもよくしてくださるし、私が何かして罰するということもないだろう。
でも緊張するのだから仕方ないではないか。
王宮へ向かう時間となり、心臓を吐き出すのではないかと思うような胃痛と吐き気の混ざったような具合だが、エレナのいう通り腹を括るしかあるまい。
なるようになれと開き直ることにする。
久しぶりにお会いする殿下はやはり貴族令嬢達がうっとりと眺めるほどに好青年な出立ちで、しかし前回お会いした時よりも落ち着きの無い様なソワソワした印象を受けた。
エレナの言うように、きっと今日を楽しみにしてくださっていたのだろう。
「久しぶりだな。顔色も悪くは無いな。表情は硬いが。体調は問題ないか?何かあれば無理せず申せ。」
開口一番は私を気遣うお言葉であった。
「お久しぶりでございます。殿下におかれましてはご健勝のこととお慶び申し上げます。本日はお招きくださりありがとうございます。」
ご挨拶を済ませると、客間へ通される。
王宮に宿泊するのではないので控室的な用途になるが、わざわざ1室ご用意いただいていることを有り難く思う。
「支度が済んだら案内させるゆえ、申せ。移動で疲れているだろう。急がずとも良いぞ。父上も母上も、そなたが着席してから参ることとなっておる。待っているわけではないゆえ、のんびりと支度せよ。」
「ありがとうございます。お心遣い感謝申し上げます。」
エレナに化粧直しやドレスなどに乱れがないかをチェックしてもらい、整えた後に扉の外に待機していた執事さんにエレナが声をかける。
少し移動して広間へ通されると、広間の飾りに目を奪われる。




