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ハルバード殿は相変わらずの豪快な笑みと共にご挨拶なさる。
「久しぶりだな。またよろしくたのむ。これからビシビシ訓練だ。俺は雇われたら報酬以上に成果を上げる。なんなりと言ってくれ。ガハハハハ!」
ハルバード殿らしいご挨拶であった。
これで警備自体はある程度問題となることは無いだろう。
あとは何事も起こらないことを願うばかり。
…しかし私の願いは残念ながら神に届かなかったようだ。
ハルバード殿がハーブ園に常駐しはじめて10日ほど経った頃にそれは起こった。
夜間にハーブ園に侵入した者がおり、その時に約半分ものハーブが引っこ抜かれたり、踏み荒らされてしまっていた。
もちろん温室は施錠されていたし、定時で見回りもしていた。
幸い犯人を捕らえられたので全損にはならなかった。
しかも、犯人を捕らえた見回りは定時の見回りではなく、ハルバード殿が虫の知らせとやらで臨時に見回りを行なった結果であるのだから、彼の勘は中々に鋭い。
「戦場で鍛えられたおかげだな。いくら強くても、勘も良くなけりゃ行き延びられねぇからな。能力、勘、運、仲間に恵まれないようだとすぐにお陀仏だ!ガハハハハ!」
なんて豪快に笑っていたが、一緒に笑うべきなのか非常に悩んだものだ。
犯人はやはりローズガーデンの者であった。
貴族ではなく大店の商人であるが、ローズ様との関係を問うても無関係であると主張した。
「私は茶葉を主に取り扱っている商会の者なのですが、ゴールドガーデンで新たな茶葉が流行になっている。それが他領にまで流通しはじめたのでこちらは大量の在庫を抱えているのに売れなくなってきたのです。ハーブ園のハーブがダメになれば、しばらくはゴールドガーデン産の茶葉は出回らないでしょう?その間に通常の茶葉を捌こうとしたのです。私情でございます。申し訳ありませんでした。」
あくまでもローズ様の介入はなく、単独で行なったと主張している。
「では、ゴールドガーデンの規範に則り処罰を与えることとなります。まずはハーブ園を整えるのに必要な人件費や修理費を含む経費・その間に閉鎖するにあたって得られたはずの入館料や茶葉等の損失の補償が必要です。幸いにして怪我人は出ませんでしたので、あなたは不法侵入と器物損壊、業務妨害が罪状となります。償いは金銭と労働です。金額は追ってお伝えしますが、労働は復旧のためのハーブ園の農作業となります。何か申し開きはありますか?」
申し訳なさげに俯き、特に反論は無いと首を振った。
…しかし、俯いたまま口角が一瞬上がったのだ。
やはりローズ様と何か繋がっているのだろう。
おそらくはローズガーデンに戻れば何かしらの褒章がローズ様から個人的に出るなどと唆されているのではないか。
使い捨てられる可能性は…?
早目に金額をまとめて再度ローズ様の介入の有無を確認していこう。




