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エレナとオリバー殿、マリー殿も執務室へ呼び、私の仮説を説明した。
「まさかアイリーン嬢がローズガーデンに潜伏しているかもしれないなんて。確かに彼女は社交界でローズ嬢と親しくしていたはずです。価値観が似ているためか気が合うようですね。実はアイリーン嬢に似た人物がローズガーデンにいるという情報は知っていました。ですが確証が無いためご報告はしておりませんでした。」
マリー殿は何となく知っていたようで驚いた。
確実でなくとも情報は欲しいものだ。まぁ今更仕方のないことであるが。
オリバー殿が続く。
「あちらの動きを見ながらどう介入するかを決めませんと。まだ個人の特定はできていないわけですが、あまり手をこまねいているとまた何か事件が起こるかもしれません。今はハーブ園への嫌がらせ程度ですが、いよいよ人相手に何かがあってはいけません。特に他領の貴族に何かあればかなり問題になるでしょう。」
確かに。
対象が人となっても、狙いが私であるとは限らない。
お客様に何かあれば私の管理責任者を問われるばかりか、ゴールドガーデンの存続すら危ぶまれかねない。
「ハルバードを雇うのはいかがですか?」
エレナが提案する。
「ハルバードに見回りを任せれば警備も安心ですし、彼は人を育てるのも上手いので警備体制が間違いなく強化されます。流石に彼1人では警備を継続するのは難しいですが、できる人を増やすと言う点でもメリットは大きいと思います。それに、以前こちらに滞在していた際に警備隊を訓練し、かなり慕われていましたもの。適任です。」
ハルバード殿か。
随分と別れを惜しんで帰郷されたことを思い出す。
「エレナ、ハルバード殿への依頼は任せても良いかしら?警備を万全にして、それでも対応しきれない問題が起これば仕方ないわ。できる対策からいたしましょう。警備隊も人数を増やしましょう。領内の他の場所がおざなりにならない範囲で異動をかけましょう。他に何か案は有りますか?」
「私は引き続きローズガーデンの動向を探ります。未確定な事柄でも出来る限りご報告させて頂きます。」
マリー殿も諜報が専門というわけではないのに、人脈が豊か過ぎて頼りになる。
「えぇ、よろしくお願いします。では会議はここまでと言うことで。お疲れ様でした。」
執務室で1人になってみて、あの事件の記憶が蘇る。
私が誘拐されたことへの恐怖よりも、テッドや殿下が私のせいで大怪我を負ったことへの後悔と懺悔。
今はあまり思い出すことも少なくなっていたのだが、唐突に思い出しては全身が強張り、震える。それでいて力が入らずに動けなくなるのだ。




