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更なる沈黙が続き、それから意を決したようにじっと私の目を見て答える。
「実は記憶はございます。酩酊まではしていませんでした。と言うより、わざとあのようなことをしたのです。ローズガーデンの領主様のご令嬢から、ゴールドガーデンへ赴く貴族へ『ゴールドガーデンで嫌がらせをするように』と水面下で指示があったのです。逆らえば税を増やす、従えば税を軽くする、他にも領内で優遇すると条件付きで。お恥ずかしながら、我が男爵家は成り上がりの貴族が故に、既に金銭面で余裕が無くなってきているのです。現に嫌がらせをした者たちは報奨金として幾許かの金貨を与えられたり、通行手形などを与えられたりと優遇されていると伺っております。これは我が家門を盛り返すチャンスでもあると思い、このようなことを致しました。」
黒幕はローズ嬢であったのか。
ではなぜ?
ローズ嬢にとっては何も得することは無いではないか。
「そうでしたか。正直に事実をお話しくださりありがとうございます。他に何かありますか?」
少し考えてから男爵は答える。
「いえ。本当に申し訳ございませんでした。図々しいことを申し上げますが、厳罰は避けていただきたいのです。罰金が多くは支払えないと思います。本当に申し訳ございません。」
「考慮致します。では一旦これで切り上げましょう。改めて時間を置いてから聴取を致しますか?」
「いえ、お話しできることはもうありませんのでこれで終了で良いと思います。」
「お疲れ様でした。しばらく勾留させて頂き、対応が決定次第お伝え致します。ごゆっくりお休みください。」
そう言って退室しようとした。
「あ、クレア様。ローズガーデン領を出る際、ローズ嬢とお会いしたのです。その時、クレア様のようにブロンドの髪に青い瞳の女性がいました。今までどのパーティーでもローズガーデンでは見かけたことのない女性でした。侍女ではなく、ローズ様のご友人のようでしたが、あのような内密な指示を出す際に同席させるということはこの件にも関係がある方なのでしょう。その方の正体は存じ上げませんが、ふと思い出しましたので。」
「…情報ありがとうございます。ではこれで。」
案外男爵が素直に聴取に応じたことに驚いたが、それ以上に最後に言っていた女性についてだ。
アイリーンなのではないかと直感的に思った。
ローズ様は私のことが嫌いだ。しかも権力に目がない彼女は確か皇太子妃の座を狙っていたはず。
アイリーンは私のことを恨んでいるに違いない。完全な逆恨みであっても、本人からすれば立場を失って日陰の存在になったのは私のせいであると考えているだろう。
その2人が手を組んで私を陥れようとしているのではないか。




