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「クレア様、王族というのは幼い頃からご自身の感情をコントロールしたり、表情に出さない訓練を積まれています。政治的な外交などの局面で不利にならないようにするためです。クレア様がそのようにお感じになられたのはそういった訓練の賜物なのではないでしょうか。それでも胸に秘めてはおけないお気持ちだからこそ、公にお気持ちを表明なさったのではないでしょうか。今の殿下のご性格ならば公の場であのように感情を優先させてお気持ちをお伝えになることは無いと思います。むしろ殿下はクレア様に恋をしているというよりも愛していらっしゃるのだと思いますが。」
侍女として殿下を見てきたエレナだからこそわかることなのだろうか。
「エレナはハオマに対する気持ちは『恋』なの?それとも『愛』なの?」
私にはどちらもよくわからない。
「私はこれ以上誰かを好きになることも、想い続けることも、誰かのためになんでもしたいと思えることも無いと思います。ハオマだから思える気持ちなのだと。しかし、恋なのか愛なのかと言われると私はまだ恋なのかもしれません。堂々と相手に想いを伝える勇気も持てませんし、想いをアピールすることもできませんから。」
自虐的な微笑を浮かべつつエレナはそう言う。
「相手に想いを伝えたり、アピールできたらそれは愛なの?エレナは何年も同じ人を想い続けて、その人のために危険なことだってできるのにそれは愛とは言わないの?」
恋愛とは哲学的だ。
奥が深いななどと思いつつ、ますます理解することに混乱してしまう。
「私の気持ちとしてはハオマを愛していると言えるとは思います。それを自信を持って愛だと言い切る自信がないのです。気持ちに嘘も偽りもありませんが、私自身の自信が無いことで愛だと断言できないのです。私がハオマを幸せにできる自信が無いのです。」
「そういうものなの?相手を幸せにできないといけないの?幸せってそれぞれ違うわ。エレナにとって相手にはこれが幸せだと思うことでも、相手にはそうで無いかもしれない。そう考えると、誰だって相手を幸せにする自信なんて持てないわよ。そんな自信はもはや自惚れでしか無いのではないの?」
お金に余裕があり、身分もあって、住むところも食べるものも着る物も困らず、使用人までいれば生きていく中では困らないが、それが幸せと言う人もいれば逆に窮屈だったりして不幸という人も居るだろう。
「幸せって何なのかしらね?」
私は聞こえるか聞こえないかくらいの呟きを漏らす。




