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「私は昔から立場を利用して自分勝手に振る舞っている。誰も私へ強くは言えないからな。私より権力があるのは父と母くらいだから。以前の見合いの話も申した通り、私はわがまま放題やってきたのだ。まともに政務を行うようになったのも、20を迎えた頃からだ。それまでは遊んだり、植物の研究ばかりしていた。しかも人から良い評価を政務で受けるようになったのはそなたと出会った頃からだ。そなたへのアピールで申しているのでは無いぞ?そなたと出会ってからは、私は自分がいかに恵まれ、そして責任ある立場であるかを実感し、上に立つ者の義務として国を良い方向へ導くためには?と考えるようになったのだ。それまでの政務は惰性的に行なっていたに過ぎない。」
殿下のお人柄は出会った頃から紳士的でお優しく、政務もしっかり取り組まれていたと記憶している。
惰性だなんて考えられないくらいに。
「殿下はきっと元々が志が高かったのでしょう。政務への姿勢が私との出会いにより変わったとおっしゃっても、その前から十分な成果を出されていたのだと思います。桜の研究がその最たるものです。国民の笑顔のためにという殿下のお気持ちは、これまでも、これからも、真摯に国民や国政に向き合っていかれるのだと思います。」
そもそも以前のお見合いなる出来事は私には信じられない。
私の知る限りでは、そのような言動を軽々しくなさる方では無いから。
「以前の私のことを知られたら幻滅するぞ。間違いない。それほど酷く身勝手であった。若気の至りだ。恥ずべき過去だな。だがそんな私も知って欲しいのだ。わがままで身勝手な私も、そなたを想う私も、国を良く治めたいと思う気持ちも、それでも国よりもそなたを何よりも大切に思ってしまう私も。そなたに出会ってからは、私自身が知り得ぬ自分を知った。」
熱烈に想いをお伝えくださるのだが、こういう時はどう反応したら良いのかを知らない。
ただ、なんだかからだの芯がむずむずするような妙な感覚に気づいた。
むずむずするのになぜか不快ではなあという不思議。
この症状はよくわからないからもっと様子を見ることにしよう。
「『恋』とは、どのような感覚なのですか?友などの大切だと思える方々と、何が異なるのでしょうか?以前も似たようなことを教えて頂きましたが、何がどう違うのでしょう?」
これが恋なのか、単に恥ずかしくてむずむずとした感覚なのか…
「そうだな。あくまでも私の思考や感覚での話しなのだが、余程忙しい時以外はそなたの顔が頭に浮かんでくる。次はいつ会えるか、会ったら何を話すか、何をするか、そんなことを考えてしまう。考えていると、楽しい気持ちからか表情にそれが出てしまう。要するににやけているのだ。」




