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広間では既に沢山の人が集まっていた。
「…クレア様?」
あちこちから名前を呼ばれた。
名前を呼ばれることが嬉しいと感じるなんて。
名前を呼ぶ声はどれも優しい。
自然と涙が止まらなくなり、みんなを心配させてしまった。
「クレア様、何かご無礼がございましたか?」
「ばか!こんなことになって怖かったに決まってるだろ!もう大丈夫ですよ!」
「貴女へ危害を加えることは決して致しません。」
「違うのです。私を見て、話をしてくれ、名前を呼んでくれ、微笑みかけて頂けることに嬉しくてつい…。 この5年程は誰とも接してはいなかったので。オリバー様も皆様も、本当にありがとうございます。私はきっと寂しかったのです。孤独から解放してくださりありがとうございます。」
そう言うと、口々に「頑張りましたね」「貴女はお強い方だ」と励まし、褒めてくださった。
「ところで、この反乱のリーダーはどなたなのですか?私、自分のことばかりでご挨拶もろくに致しませんで。皆様へもですけれど…」
リーダーはやはりオリバー様だ。
「私が指揮をとり、反乱を起こしました。私は貴女様のお父様、先代のアーノルド様の護衛隊長でした。アーノルド様がお亡くなりになられてからは引退し、町で道場を営んで指導をしておりました。
この度はクレア様にとってもお辛かったでしょう。オズワルドは今や牢屋に捕らえておりますが、貴女様にとっては叔父様ですから。」
オリバー様は私を気遣ってくださる。
「いえ…実はオズワルド叔父様とはほとんど話したこともないくらいの間柄ですので何と言うか…正直顔すらうろ覚えなくらいなので、冷たいかもしれませんが何も感じないのです。」
皆驚く。
それはそうだろう、私が15歳で間違いなければ、12年くらいは共に過ごしている「はず」なのだから。
「私は今後どうしたら良いものでしょうか?私もこの城の者として覚悟はできています。出て行けと仰るなら出て行きます。働けと仰るのなら命尽きるまでこの身を捧げましょう」
私の身の振り方も気になるが、私はこれ以上望むことはない。
両親を懐かしみ、私を私として認めてくださった。
それで満足だ。
オリバー様は少し難しい顔をしながら、これから会議をすると仰った。
会議が終わるまでは客室で待機ということだ。
フワフワのベッド。
暖かい部屋。
かわいい人形も、美しい絵画も、この部屋には何もかもが揃っているように思える。
私の離れは、城の離れということで元はそれなりに家具はあったが、私が城から離れへ移る際にほとんど不用品に取り替えられていた。
今あるのは生活に困らない最低限。
装飾や調度品の類はなく、質素で簡素なものたち。
まぁ家具が豪華すぎると余計に虚しくなる生活だっただろう。私には似合いの部屋だったのだ。