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私は思った通りに言動していると思っているのだが、そもそもの心の機微というか、細かな感情を理解していない部分があるのだ。
だからこそ殿下には立場という壁に加えて、私自身が自分の感情もよく理解できずにいることで心の距離ができているような印象を与えてしまったのだろう。
心のままに態度に出しているつもりだったが、客観的に見ればあまり感情を表出できていないのだ。
私だって感情の表出をできるように努力しているものの、中々うまくいかないのが実情。
それをエレナや殿下は迷惑がるでもなく、心配して気遣ってくださるのだ。
「殿下、殿下はお休みの日はどのようにお過ごしになられるのですか?私は庭を散歩したり、本を読んだり、やり残した仕事をしてみたりしております。」
話しを私から振ってみると、殿下は笑顔で応えてくださる。
今は話しをプライベートなものにしぼろうと思う。
「そうだな、私は馬で遠乗りをすることもあるし、森に狩りに出ることもある。川で釣りをすることもあるし、部屋で本も読む。絵を描いたりもたまにはする。狩りはあまり好きではないがな。1番はな、研究室に行って桜の研究をすることが多いと思う。絵はな、理想の桜の風景を思い浮かべるのだ。あとはな、そなたへ手紙を出したりしている。」
とても素敵な桜だった。
殿下の桜の研究はまだ途中なようで、今もお休みの時は研究なさっているとは。
「多趣味でいらっしゃるのですね。王城の中庭の桜は本当に見事でした。今も鮮明に思い出されます。今度王城へお招きいただけるときには是非、殿下の理想の桜の風景の絵を拝見したいのですが、お許しいただけますか?」
きっと桜だけではない。
桜の周りには笑顔の人々がいて、平和なこの国の未来が描かれているのだろう。
「あぁ、良い。絵はあまり得意でもないのだが、そなたにも私のことをよく知ってもらいたいからな。」
「ありがとうございます。とても楽しみです。」
この後は遠乗りについてなどのお話しを聞かせていただき、殿下のプライベートな一面を知ることができた。
愛馬の世話も、出来るだけ人任せではなくご自身でおこなっているのだとか。
馬との信頼関係はとても大切だから、よく触れ合って信頼関係を築いているのだと。
人間だけでなく、植物にも、動物にも心を配れる殿下を素敵だと思う。
これは尊敬の念だと思うけれど、いずれ恋や愛に変わるのだろうか。




