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「そうか。子どもらに学びの場を作ると。それは良い考えだ。基本的な読み書き計算が出来れば経済も良く回るだろう。さすれば生活水準も上がる。自身の適正も見極めやすかろう。より適した仕事がそれぞれにできれば尚のこと。識字率が向上するだけでも民との交流はしやすい。ふれを出せば読めるのだからな。」
殿下にも賛同頂き、私の考え方が独りよがりなものではなく民の為になることなのだと思えた。
「まだまだ学問の必要性を理解して頂けない可能性もあります。まずはこの特例的な状況から検討を重ねていきます。そして何かの形で発信していけたらと思っています。読み書き計算だけでなく、運動や道徳的なものなどについても学べるようなカリキュラムを検討しておりますので、王都の学校に負けないような教育ができれば理想的です。」
「では王都の学校に視察に来るか?王立学校ゆえ、その辺は私にも自由が利く。私から校長へ口添えしよう。改めて日程などは知らせるように手配する。」
殿下からの申し出に大変ありがたいと感じた。
「ありがとうございます。私は学校というものを知らずに過ごして参りましたので大変参考になります。」
私が礼を言うと、殿下は笑う。
「クレア、そなたのためになることならいくらでも力になりたい。それに、そなたが王都に来るということは、私もそなたに会える機会が持てるということだ。私にもそなたにも有益だぞ。」
時々見せるいたずらっ子のような笑顔でそんなことをおっしゃる。
相変わらず私に気を遣わせないような気遣いだろう。
ありがたいことだ。
「恐れ多いことでございます。楽しみにしております。」
そうしてしばらくやりとりしたのち、私はお茶会の支度があるからと仕事に戻り、殿下には客間でお寛ぎ頂くことになった。
入れ違いにオリバー殿がご挨拶に来られていた。
ハーブ園も驚くべき速さで工事が終わり、移転済みとなっている。
土木建築局が思いの外仕事が早く、段取りを進めた結果、当初見込んでいた工程よりも早く着工でき、施工も驚くべき速さで終わったのだ。
土木建築局だけでない。
各局ともに連携がスムーズだったため木材などの輸送も何もかもが想定よりも早くできたのだ。
こうして結果に現れると、各局を設置・運用してみて正解だったと確信する。
ハオマとエレナも植え付けなどをスムーズに行い、早くもハーブ園には青々としげり始めている。
「クレア様、今日の気候や茶葉の出来ならばこちらが良いかと。お茶菓子もこちらをご用意しました。」
エレナが試食用に出したお茶は、汗ばむ頃にはちょうど良い冷たいハーブティーで、水出しで淹れたそうだ。
女性ウケを狙ってティーカップの中に花が開く仕様のもの。
しかもレモン汁を入れると色が変わり、味も変えられるということでレモン汁も添えてお出しすることに。
お茶菓子は料理長特製のハーブ入りのマドレーヌとスコーン。クロテッドクリームにも少しハーブが混ぜ込んである。お茶が酸味を持つものなので、お茶菓子のハーブは甘くて香りの良いものを選んで配合している。




