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「クレア様、家庭教師の先生は毎日僕にお勉強を教えに来てくれてるよ。それならついでに一緒にお勉強する子を誘ったらさ、僕にもお友達ができるよ〜!お友達もお勉強出来るし、ダメかなぁ?」
それを実行するのは中々難しい。
警備の面ももちろんなのだが、そもそも一般的には『学問』というものを重要視されていないのに、家の手伝いもさせられなくなるのに勉強へ来させるというのは親達も同意することが難しいだろう。
「ダン、お城には衛兵さんがいるでしょ?それはね、間違って悪い人とかが来ちゃったら大変だからよ。だからね、お城に人を入れるにはみんなの意見を聞いて、きちんとそのための手続きが必要なのよ。でもね、ダンの気持ちはわかったわ。ありがとう。出来るだけそう出来るようにオリバー殿達と相談してみるわね。」
「ありがとうございます。僕はお勉強させてもらえてるだけでもありがたいんです。だから、クレア様の言う通りにして、お勉強頑張ります。」
ダンはどちらでも良いと言うが、ここを離れたく無いのが本音のようだ。
学校をそれぞれの町へつくる構想はあったが、まだまだ先のことだという想定だった。
まだ領民達の暮らしは少しずつ豊かになりつつあるとはいえ、子どもも立派な働き手だ。
そんな中で子ども達を学校に行かせることに納得するだろうか?
納得していただける方だけ取り急ぎお声がけするにしても、一体何人集まるだろう。
もしかすると誰も…という可能性すらある。
とりあえずはオリバー殿と相談して、ご同意を得られればダンと同年代の子女の居る家に声をかけてみるか。
賛同頂けない場合や、どこも子女を学ばせることに反対である場合は、ダンを王都の寄宿舎へ預けて学ぶようまた本人に相談せねば。
ダンは人と関わる暮らしを最低限しかしていないから、私のように人の感情の機微に触れる経験もほとんど無かった。
せっかくなら私たちだけでなく、色んな人たちと共に過ごす経験をしてもらえると更に成長出来るはず。
すぐさまオリバー殿と相談すると、意外にもあっさりとご賛同頂いた。
「確かにダン殿は賢く、聡い。だが自分の世界だけしか知らないというのも成長するためには足枷でしょうね。まずは近隣の住民に声をかけましょう。場所は庭の小屋でいかがですか?あそこなら5人くらいは入れますし、読み書きする場所もございます。庭もハーブ園に移るわけですし、あそこを少し風通しを良くしたら少人数なら問題ないでしょう。子どもらには手形を渡し、衛兵も小屋の出入りや周囲に注意を払うよう申し伝えましょう。」




