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順調にお茶会準備や領地の運営などをみんなで協力しながらこなし、そろそろダン、ハオマ、アシャが来て1ヶ月が経過しようとしていた。
「クレア様、僕ね、エレナさんのお茶がとっても好きなんだ。ほんとはお茶の時のお菓子が好きなんだけど。僕もこういうの作れるようになりたいです。クレア様に美味しいものをたくさん食べてもらいたいです!エレナさんにも!」
ダンのこの言葉により、私たちはちょっとした挑戦をすることとなった。
『クッキーとパウンドケーキを作る』というミッションだ。
もちろんハーブを使って作るのだ。
調理長は「こちらにお任せください!」と申し出てくれたのだが、ダンは目を輝かせて「僕、自分で作ってみたいです!」と押し切った。
料理長監修の基本レシピをいただき、それをアレンジする形で私たちの挑戦は始まった。
夜会などのパーティーの準備の際にしか使われない予備の調理場にて、それは行われることになった。
ハオマはハーブの特性を理解して、色々と提案してくれるし、アシャもそれに合わせて香り付けのための提案をしてくれる。
が、乾燥させた茶葉を作るのでもなければ、煮出したお茶を作るわけでもない。水分などのバランスが難しく、難航しているのだ。
「中々うまくいきませんね。ここはバターと卵を少し増やしてみては?それとも焼き時間を調整する方が…?」
エレナもあれこれと考えてはみんなで作っていくことを繰り返すこと既に半日。
朝から挑戦して、既に日が暮れた。
「僕こねこねするのも混ぜ混ぜするのも楽しいな!どんどんできるよ!」
ひたすら混ぜたり、こねたりを楽しむダンに対し、私たちは疲弊しつつある。
『ダンに良い思い出を!』
と、皆懸命に作業・アセスメントで頭も体もフル稼働中だ。
「あのー?」
声のする方を見ると、料理長がそこにいた。
「まだここに灯がついておりましたので…。何か自分にもできればと来てしまいました。」
なんとありがたい申し出だろうとみんなの救世主たる料理長を拝む。
「ありがとうございます!ハーブを使うという点ではコンセプトも配合も決まっているのですが、なにぶん仕上がりが上手くいかずに困っていたのです。是非プロの目でご教授頂きたいと思います!」
「クレア様のお役に立てれば光栄ですよ。」
私たちのクッキーとパウンドケーキを味見し、少し考えると的確にアドバイスをくれる。
「まずはパウンドケーキですが、これは卵を増やしましょう。そして、焼き時間は少し長めにして、その分火を弱めてください。クッキーについてはバターを少し増やし、焼き時間は短めにしてみてください。」




