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殿下と色々なお話しをしたが、公務の内容は国家機密なのでその話はしなかった。
研究の内容や、幼少期からの思い出など、様々なことをお聞かせいただいた。
私も今までの話しをした。
最近の話しも。
テッドが出立したことも。
「彼ならば己の生きる道を見つけて歩めるだろう。次にいつかどこかで会えるのが楽しみだな。私も負けぬよう精進しよう。そなたに相応しいとエドワードに認められるようにな。」
そんな話しをしていると、セドリック様が中庭にお迎えに来てくださった。
「2人ともそろそろ戻ろうか。兄上たちもヤキモキしているようだしな。」
陛下のご様子を思い出されてなのか、楽しそうに笑っておられる。
「叔父上、大変有意義な時間となりました。仲人として今回の縁談の取り仕切りをお引き受けくださってありがとうございました。私はこの縁談を是非このまま進めていきたいと思いますが、クレアの気持ち次第ということで今後とも見守ってください。」
殿下の言葉に改めて今日だけでなく、まだ今後のこういう席があるのだということを思い出させられる。
「セドリック様、私も本日は大変意義深いものでした。『縁談』としてはまだ答えを出すことはできずに申し訳ございませんが、私なりに検討させて頂きたいと想っております。実を申しますと、始まるまではお断りしようと思っていたのです。『知る』ということはとても大切なことだったのですね。」
それぞれの気持ちをセドリック様にお伝えして、国王陛下ご夫妻のいらっしゃる室内に通される。
「2人とも、仲睦まじく談笑していたのを上から見ておった。あの様子ならば少しは期待したいとも思うが、焦らずに前向きに考えてくれると嬉しい。そなたも今は領主としての執務で多忙であろうが、たまにはこちらへも顔を出してくれるとより嬉しいのだ。」
「そうですよ。マーティンは婚姻する気もないどころか、縁談の話が出るだけでそれをぶち壊そうとするしようのない息子ですから。ほとほと困っていたのですよ。ようやくその気になったと思ったら、あなたのような素晴らしい女性を見初めて。女性を見る目が意外にもあったことに驚いているのよ。ふふふ。焦らせるつもりはないのだけど、娘ができるかも知れないと思うと私たちは嬉しくてたまらないのよ。」
両陛下ともに縁談には賛成されているようで。
「おそれ多くも身に余るお言葉、ありがとうございます。今はまだ執務に追われておりますが、また殿下ともお話しさせて頂きたいと思っております。私の気持ちを尊重して下さるとは王室の縁談としては異例でございましょうに、お気遣い痛み入ります。」
こうして縁談の席は失礼もなく無事乗り越えられたようだ。




