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私のそんな諸々のプレッシャーが、更なる緊張を呼び、口から内臓が出てくるかのような変な具合だ。
吐くこともなく王城へつき、なぜだか殿下直々に出迎えてくださり、馬車から降りる。
「クレア、忙しいのにすまない。ただ、私の立場としても時間は無限ではないのでね。そなたとの時間をできるだけ多く確保したいのだ。1年というのはあっという間に過ぎていく。そうしていつの間にか歳を重ねて今に至ってしまった。何もせずとも歳は重ねるのに、そなたの気持ちを動かすことはたった1年では難しいかもしれない。その思いが私を焦らせるのだ。自分勝手な私を許せ。」
殿下は出迎えるなり私に告げる。
同じく馬車から降りたセドリック様が殿下にご挨拶?なさる。
「やぁマーティン。元気そうだね。」
「叔父上。本日はお忙しい中ありがとうございます。」
「本当にお前はクレアのこととなると必死なのだな。女に興味のない剣技ばかりが生き甲斐なやつだと思っていたのに。」
セドリック様がおかしそうにクスクス笑うと、殿下は少し照れたご様子で下を向かれた。
「私もクレアとなら国を治めるのに良きパートナーとなれると思っているのです。その資質はもちろんなのですが、生涯を共にしたいと渇望するこの気持ちは、クレアにしか抱いたことがないのです。クレアだってうかうかしていれば他の男との縁談が来るでしょう。それならと名乗りをあげたのですよ。」
殿下は本当にこの国のことと、そして私のことを思ってくださっているのだなと感じた。
やっぱりすぐにお断りするのは失礼かしら?
「お前の目が確かなことが誇らしいよ。ただの馬鹿者だと思っていたが、いつの間にか王太子としてきちんと国のことも考えていることがわかって良かった。」
「ありがとうございます。ただ、私はやはり馬鹿者という評価は正しいと思います。殊更クレアのことには周りが見えなくなりますから。」
「そうだな。そうみたいだな。」
そんなやりとりをして控室へ案内された。
エレナに身支度を手伝ってもらい、一息あたたかいお茶を少量飲むと、少しだけリラックスできた。
「クレア様、どのような結果となるにも最早運命です。見知らぬ方ではないのですからどうか肩の力を抜いてください。ただの世間話と思えば気も楽になりましょう。」
確かに肩どころか全身が強張っているような気はしている。
お后候補というフィルターがそうさせているが、よく考えたら両陛下や殿下とは既に謁見したこともあるのだから今更緊張することもないのかもしれない。
立場などが変わるだけでこんなにも異なるプレッシャーがかかるのか。




