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「スペンサー公の奥方様は、スペンサー公と同じご年齢でいらっしゃったはずです。もしかすると、クレア様のお父様ともご学友なのかもしれませんね。嫡男のオードリー様が10歳、次男のイーサン様が7歳、三男のオスカー様が6歳、長女のエマ様が3歳です。奥方様はベアトリス様という方で、慈善事業を積極的になさっておられます。内容は孤児院の設立、炊き出し、図書室の設置やそこでの読み聞かせなどです。才色兼備でしかも学業についてはかなりの優秀な成績を修められたそうで、『男子であれば大臣の器』と社交界を賑わせたお方だそうです。お人柄も穏やかでお優しく、公平な方であるとの評判です。お子様方も利発で素直なご夫妻のご様子そのものと専らの噂で、既にご縁談の申し込みもかなりあられるとか。クレア様、スペンサー公爵様のご一家ですから、間違いなく素晴らしい方々ですよ。構えて行かずともありのままのクレア様を受け入れてくださるはずです。」
エレナの情報と言葉に安心したが、やはり失礼があってはいけないことには変わりない。
様々なマナーなどの話しを一通りし、あとは気分を紛らわせるために世間話をすることにした。
エレナにはこの時間は友人モードで接するよう頼んだ。
「そういえばね、ダンがやりたいことを見つけたみたいなのよ。かなりざっくりとした目標ではあるんだけど、『みんなを守ること』なんですって。『そのためにお勉強してどうしたらみんなを守れるかを考えること、からだを鍛えて悪い人をやっつけられるようにするんだ』って言ってたわ。」
この短い期間で、子どもが自分の人生のやりたいことを見つけるなんて到底難しいだろう。
それでもダンは考え、方向性を決めたようだ。そのためのなすべきこともダンなりに考えたのだ。
「ダンはやっぱり賢いのね。ハルバード殿もダンに色々と御指南くださっているものね。心の在り方とか。ただの子どもとして過ごせる年齢なのに、私たちが生き急いでいるからなのかしらね?自分の使命とか、そんなことを考えさせてしまっているのではないかと心配だわ。ダンにはもっと自由にいきいきと過ごしてほしいわね。」
本当に賢い子どもであるがゆえに、心に負担をかけてしまわないと良いのだが。
エレナも同じように思っていたようだが、それでも、自分の信念を見つけられたのだということはとても嬉しいようだ。
「ダンが甘えられるように私たちももっと心に余裕のある生活をしなきゃね。クレアは忙しすぎるんじゃない?ダンとも遊んであげられるくらいには仕事をもっと周りに割り振ったら良いのに。」




