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慌ただしく時間ばかりがすぎ、いよいよ王都へ向かう日にち、時間となる。
エレナは庭をハオマに任せ、私に同行する。
縁談の席は明日設けられるのだが、前泊して当日に備えるのだ。
宿泊先はスペンサー公爵邸。
セドリック様とも久しぶりにお会いできることを、私は密かに喜んでいる。
手紙ばかりのやりとりとなっているものの、セドリック様は父のように接してくださっているのだと思う。
父との記憶がないもので、おそらく父ならこう接してくれるのだろうという正にそのような応対をしてくださるし、私の悩みなどには的確にアドバイスをくださるのだ。
移動中はエレナと他愛のない話しをしつつ、恒例のマナーの復習をする。
女子の話しというのは古今東西、終わりなく続くものらしい。これはエレナ情報だ。
私たちも御多分に漏れず、とりとめなく話しているうちに王都が見え、慌ててマナーの確認をはじめたのだ。
ついさっき領を出たばかりのはずなのに、もう王都に居るのだ。
私たちはどんな魔法が使えるのだろうと思ってしまうほどに時間の経過に戸惑いを隠せない。
「エレナ、セドリック様とのご挨拶は何を話題にしたら良いと思う?」
ご挨拶だけでなく、世間話などももちろんするのに、何をネタにしたら良いものかと急に慌ててしまう。
「クレア様。スペンサー公はとても紳士的な方ですから、慌てずとも普通にご挨拶なさったらあとはあちらからお話ししてくださいますことに応えれば良いのです。淑女たるもの、公の場ではでしゃばらずとも良いのです。あとは応接間などについてからはご自由にお話しされて良いと思います。」
仕事モードのエレナは話し方も敬語だが、先ほどまでのおしゃべりモードでは普通に友として話していたのでこの切り替えようもいつもながら感心する。
あっという間にスペンサー公爵邸へ到着し、馬車を降りると、セドリック様直々にお迎えくださっていた。
「よく来たね。君の家だと思ってくつろいでくれ。夕食の時にでも家族を紹介しよう。まずは君の部屋に案内するよ。」
客間へ通され、夕食までは休むようにとのことでエレナとのんびり過ごすことになった。
エレナたちの部屋もご用意頂いたのだが、エレナには夕食まで私の側に居てもらうことにした。
「セドリック様は奥様と、お子様が4人いらっしゃるのよね?お会いするのは初めてだけど、どんな方々なのかしら?」
エレナに問いかけると、エレナはにっこりと笑って教えてくれる。




