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しばらくの沈黙が流れた。
「横から口を挟むようで申し訳ありません。マンドレイク殿のおっしゃる方はどのような方なのでしょうか?医師を変えてみては?ご状態に合った専門の医師を頼めば治療の見込みが立つのでは?」
マンドレイク殿は言うか言うまいか悩むようにしばらく考え込む。
「患者様はカレンデュラ領のブルーベル・ペリウィンクル殿です。商家を営む家柄で、ペリウィンクル商会を運営しています。彼女は奇病に侵され、今や寝たきりです。家業は妹君が代理として代表をつとめ経営しています。しかし、やはりその場しのぎの経営ですので最近は赤字で、ブルーベル様の治療費の支払いも滞りがちなんだとか。だから主治医からもこのまま緩徐に衰弱してお亡くなりなるのではないかと言われ、治療はもうできないと。町医者にかかろうにも治療費の問題も、専門外という問題もありますので誰も診たがらないのです。私も商家として長らくお付き合いのある商会ですし、力になりたいと思っているのです。」
もっともらしく医師が関われないと説明し、ハオマの心を揺さぶる作戦のようだ。
「そうですか。その見立てが間違っているとか、回復の可能性が実はあるということは確実にないのでしょうか?」
オリバー殿の問いにまたもや回答に悩んでおられる様子だ。
「このまま今の主治医に診て頂いたところで状況が変わらないのならば、1度だけでも専門医に診察していただいて、今の主治医の診断や治療法が本当に正しいのかをご相談されてはいかがでしょうか?もしもどちらの意見も同じなのであれば、それが最早ペリウィンクル殿の運命なのでしょう。しかし、回復の見込みがあるのならば、それにかけてみては?あなた方は商人だ。投資や資金の運用には長けておられるでしょう?ペリウィンクル殿が回復して出すであろう利益と、このまま妹君が経営することでの利害についてご検討されてみては?」
オリバー殿が続け様にマンドレイク殿へ促すと、マンドレイク殿は立ち上がり、窓の外を眺めている。
オリバー殿の意見の有用性を思案しているのか、あるいはハオマを取り戻そうと次の一手を模索しているのか。
いずれにせよ、しばらくの沈黙が流れる。
誰も音を立てず、静寂の時が流れる。沈黙が静寂をもたらすのか、静寂が沈黙をもたらすのか。
この空気を破るにはどうすべきか。
エレナを呼び、デザートをお配りするよう伝える。
そして、『ゆっくりと』お茶を淹れるよう指示を出す。
空気の流れを変えるとともに、人の動きや音を感じた方がきっとこの沈黙を破れるだろう。




