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エレナからマンドレイク殿の来訪の報告を受け、それぞれに食堂へ集まるよう声をかけにエレナを向かわせた。
私はマンドレイク殿を警戒させないよう1人でお迎えに行く。
「はじめまして、マンドレイク殿。本日はわざわざ足をお運びくださって、ご苦労様です。ハオマたちは食堂に来るよう伝えておりますので、ご案内いたしますわ。お食事も準備しておりますので、お口に合えばよろしいのですが。」
私にできる精一杯の営業スマイルと軽い挨拶で、マンドレイもきっと警戒心は解いてくださると信じたい。
「クレア様、お初にお目にかかります。フェルディナンド・マンドレイクと申します。恐れ多くも男爵位を賜っております。本日は突然のご訪問にも関わらず歓迎してくださり、誠にありがとうございます。お噂に違わずお美しく、天使かと思ってしまいました。これも何かのご縁ということでぜひ、これを機にシャムロックとゴールドガーデンの交流を図っていきたいものです。」
「そうですね、ぜひ交流できると互いに経済等の発展を進められそうですね。私の噂だなんて変なものでなければ良いのですが。先日侍女をシャムロックへ使いに出したのですが、クローバーストーンは大変見事なお品でした。あれは門外不出の加工技術があってこそのあの仕上がりであると伺っております。マンドレイク殿がその技術は確立なさったのですか?」
移動しながら談笑する。
緊張しているが、精一杯の営業スマイルを絶やさない。
そして私の噂などとジョークとして話し、気難しい話ばかりにならないように注意する。
できれば私のことをただの小娘と侮って、警戒しないように持っていきたい。
「クレア様のお噂には悪いものなどありません。最近社交界に突然現れた、美貌と、聡明さを兼ね備えた深窓の姫君ともっぱらの噂です。クローバーストーンについてはそうですね、技術はシャムロックでしか行えないようにしています。私が若い頃にたまたま出来たものがきっかけなのです。それから加工手技を安定的にできる手法を研究しまして。お恥ずかしながら偶然から生まれたものなのですよ。今ではそれがシャムロックを支える主産業となっています。」
私にお世辞を言いつつ、しっかりクローバーストーンについて答えてくださる。
「お世辞がお上手なのですね。マンドレイク殿は昔は職人さんだったのですか?あんな素敵な作品を作られるなんて、本当に素晴らしい腕をお持ちなのですね。」
少しアホっぽく褒めてみる。
職人としての腕は確実に優秀なのだろう。
「いえいえ、せっかくお褒めいただいていますが本当に偶然の産物なので。今は本当に優秀な職人が何名もいるおかげで私は現場仕事はしていないのですよ。きっともう腕が鈍っているでしょう。」
しばらくそんなやりとりをして談笑しているうちに食堂へ着いた。
「ハオマ!中々戻らないから心配したんだぞ?アシャは居ないのか?いつ戻るんだ?エレナさんが居ないが、ナントカ香は手に入ったのか?」




